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同じ模様の痣-1
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「うわぁ、どんよりしてますね……これが『邪心』かぁ……うっ、きもちわる」
ハルにしか見えない『邪心』は、水の中に黒い絵の具を一滴垂らしたように滲んでおり、湖全体に広がっている。
そこで幻影魔法を感じ取ったアルミンが得意な解除魔法を使って解くと、その光景を全員が目にすることが出来、『邪心』の恐ろしさに引き腰になった。
「誰が幻影魔法を掛けたのか、そこは追求しなきゃいけませんね……ではいきます!」
ハルは何となく両手を差し出して、湖に向けると大声で叫んだ。
「洗浄!!!!!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
まさかの一言で広大な湖に広がる『邪心』全てを浄化させると、ハルが一番大きな声で驚いている。
念の為あと三回ほど洗浄を繰り返したハルは、リバーダルスにとめられて洗浄が綺麗に終わったことを確認した。
「ハルって何処までも奇跡の人やな」
「ほんまに自分でも驚きやで」
ヘンリーの言葉に同じ訛りで返すと嫌な顔をされたので、ハルは二度としないでおこうと心の中で誓った。
翌年……おおらかな田舎村にありがちなテキトーさ加減で、地図にも『へーデル山の湖』とだけ記されていた湖に、村人達が王宮に願いを書き連ねた手紙を毎週送り続けたことから、国民を大切にする国王が議会を開いたところ、反対する者はおらず『ハル湖』と名付けられることになった。
奇跡を目の当たりにした魔法騎士達は足取り軽やかに山を下りているが、リバーダルスは難しい顔をして、幻影魔法がかけられていることを普段は使わない古代語で報告し、魔鳩を飛ばしていた。
「団長……例の黒幕と何か関係が有るんでしょうか……」
「そうだな。だが確証が出来るまでは軽々しく話すことは禁止だ。混乱を招きかねないからな」
リバーダルスの報告が国王に届き次第、疫病などが流行っていないか全国の分隊に探らせて、怪しいところは幻影魔法がかけられていないか調査することになるだろう。
ドドドドドドドドドッッッ!!!
難しい顔で山道を下りていると、何やら遠くから地響きのようなものが聞こえてきた。
「グリグラの群れが通るぞ!皆、木に登れ!決して傷つけるなよ」
「了解です!」
グリグラと呼ばれた草食獣は、山奥に群れを作って住み着き、一定の期間をおいて群れごと移動する動物だ。
グリグラは決して人々を襲ったりはしないのだが、見た目の怖さと群れの勢いに驚いた昔の人達は彼らを敵とみなして襲撃した。
すると食物連鎖が崩れて山の生態系も変わってしまい絶滅した動物まで出た。
その後グリグラが現れても決して襲うことはせず、人々は木に登って彼らが通り過ぎるのを待つことになった。
「木登りなんて久しぶりだよ……あ!風か浮遊魔法を使えば良かったのか!」
グリグラの起こした地響きに慌てすぎたハルは、自分に魔術が使えることをすっかり忘れてしまい、汗だくになって登った。
木の枝が幾本か分かれた真ん中のスペースに腰を下ろして休んでいると、地響きと共にサイに似たグリグラの群れが通って行った。
「やれやれだな。もしもグリグラの動画作成をするなら、間違いなく顔面凶器ってテロップ入れてたわ……ん?これは何だろう。タマゴかな?」
ホッと一息ついたハルが目線を上にやると、枝を組み合わせて作られた巣の中にポツンと一つだけ大きなじゃがいも程のタマゴが残されていた。
グリグラが移動し終わったのを確認すると、隣の木に登ったヘンリーに大声で訪ねてみる。
「それは竜のタマゴやな。無精卵やから残されてるんやわ。卵黄部分は無いねんけど、貴重な物やから王都で高く売れるで」
「えええ!この世界って竜までいるのか!どんだけカオスなんだよ……取り敢えず持って帰るよ」
「ははっ。竜は滅多に見られへんよ。部屋のオブジェには相応しくないけど、中の液体が魔力を吸収しやすいとかで、魔術師が研究したいって言ってたわ」
ヘンリーの説明を聞いてますます興味が湧いたハルは、タオルに包んでそっと鞄の中にしまっておいた。
村に下りてくると見違えるほど元気に回復した村人達が迎えてくれ、軽食を作ったので食べてくれと声を掛けてくれた。
貴重な食料を貰うわけにはいかないと遠慮をしたクリスに、リバーダルスが折角の真心を受けようではないかと説得し、ささやかな宴が始まった。
「ねぇねぇハル様!将来僕と結婚してください!急いで成長しますから!」
「いやいやいや。僕は年上が好きというか、年下攻めをこよなく愛する身なので遠慮しておくよ」
「とししたぜめ?なんですかそれ?……とにかく僕達六歳しか変わらないんですから、良いじゃないですか!」
すっかりハルに懐いてしまったセルディの弟フランクは、宴が始まると同時にピッタリと横に陣取りハルを口説くのに必死だ。
セルディ兄弟の整った顔から予想はしていたが、この村はジューン地方でも有名な『美形村』と呼ばれる村で、村民全てが美形というまさにファンタジーの世界そのものだった。
「僕には心に決めた人が居るからダメだよ。ごめんね」
先程からリバーダルスにお酌をしている美人にヤキモチを焼いているハルは、心の狭さを隠しもせず夢見る少年の希望をピシャリと折っていく。
「なんだぁ、魂の番(つがい)が居るのか……それじゃあ勝ち目はないな。あーあ、残念だよ」
「魂の番って何?またまた異世界バンザイ的な話かな?」
フランクが諦めに入った途端、話に食い付いたハルは、少年相手に血走った目で問いただしている。
「ハル様は獣人なのに知らないの?魂の番は永久の愛を育む離れ難い伴侶で、結ばれた時に互いの体の何処かに同じ模様の痣が浮き出るんだよ……誰も教えてくれないの?」
十歳の少年にまで可哀想な子を見る目を向けられたハルは、今の会話が聞こえているであろうリバーダルスをギロりと睨んで圧力を掛けていく。
「フランク……教えてくれてありがとう。同じ模様の痣ね……試してみるよ」
意味深なハルの言葉にぶるりと震えたリバーダルスは、いよいよ自分の尻が危ないことを悟り冷や汗をかきながら、次々に注がれるヘーゼル村特産の醸造酒・ユンチャーンをひたすら飲み干していた。
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