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ハルの力の源-1
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ハル達は赤子が保護されている貴族の別荘へ着くと、先に到着していた特別騎士団の仲間たちと合流し、手短にハルの行った解除について語って聞かせた。
「うっわぁ……またまた派手にやってしもうたな。でもほんまに良かったわ。団長達もハルもお疲れさん」
ヘンリーの労いの言葉を聞いて、他の魔法騎士達も奇跡を起こすハルを頼もしい仲間として賞賛した。
そのうちに続々と赤子たちの母親が屋敷を訪れて、我が子を見つけると安堵の息を吐き、しっかりと抱きしめて涙を滲ませる姿を見てこちらもホッとしている。
中には仕事を早退したらしき夫連れの者も見られ、過去の戒めにも似た例の悲劇である実験の話が今でも言い伝えられ、家族全員で子供を育てている様子が見られた。
母親達が帰り際にネオたちへたっぷりの礼と、心遣いとして手作りの料理などを置いていったので、閑散としていた居間は日が暮れる頃にはハル曰く『デパ地下の有名お惣菜品コーナー』のように様変わりしていた。
対応に当たっていたネオと子供好きのセルディは、今は姿を隠しているハル達にもお礼が言いたいから会わせてくれと懇願され、なかなか帰らない彼女たちの目に只ならぬ熱意を感じてたじろいでしまった。
「今は此方には居ないので僕達から伝えておきますよ」
何とか説得して全員に帰ってもらった頃にはすっかり月も登り、星空の浮いた夜空が時刻の遅さを知らせていた。
「こちらの別荘の持ち主へも連絡が取れました。理由を話せばいくらでも居て構わないと言って貰えましたので、本日はもう遅いし皆さん、こちらに泊まって行ってください」
先週十五歳の誕生日を迎え、ここを去っていったネオの友人であるケントは、それまでの記憶が残っていたため呪術が解けると直ぐに戻って来て、彼らを手伝っていた。
子供たちの間では最年長だけあって対応の仕方もしっかりしている。
ケントの申し入れを有難く受けることにした特別騎士団員たちは、母親達が置いていった数々の料理で腹を満たし、明日の朝王都へ向けて出発する事になった。
「ハル様、グーテンの特産ハーブティーです。良かったら飲んで下さい」
「やぁネオ、すまないね。是非いただくよ」
家庭料理ではあるが旅の途中にしては随分と豪華な夕食になり、無心で食べていたハルはあっという間に満腹になってしまい、夜風に当たろうと庭に出て休んでいた。
厚着はしているが少し体が冷えていたので、温かいハーブティーは体の芯からあたたまって心地も良かった。
「ハル様の人気は凄いですね。いつも兄のルピからハル様のお話は聞いていますよ」
「たまたま運が良く能力を発揮できただけだよ……それに魔術師闘技大会だって……僕よりもモナ様やルピが出場する方が相応しかったんだ……」
ハルは自分が優勝出来たのは運が良かったからだと思い、天狗になどなってはいなかった。
むしろ四大魔術師のモナや十二歳にして優秀な魔術師として貢献しているルピには申し訳ないとさえ思っていたので、相手が子供だと知りながらも苦い思いを零してしまった。
「ルピの言う通りハル様は謙虚です。……ルピもモナ様も魔力は群を抜いて高いのですが、実は攻撃魔法が極端に苦手なんですよ。ハル様が出場してくれて良かったって二人からは聞いています」
「そうなのか?……なら、少しは気分も晴れるよ」
ハルの頼りなげな目と声に優しく微笑んだネオは、ルピが魔術師になった経緯を涼やかな声で語り始めた。
ルピに魔力が有ると判明したのは六歳の時で、綺麗な顔をした大人しいルピをいつまでもからかい続けた男の子に対して怒りが爆発した時、魔力を暴発させてしまい相手に大怪我を負わせてしまった。
ちょうどグーテンにお忍びで滞在していた魔術師のモナが彼に完璧な治癒魔法を施して事なきを得たのだが、自分のせいで友人が傷付いた事への恐怖から言葉が話せなくなったルピを見て、私に預けてくれないかとモナから話を持ちかけられた両親は、可愛い息子を彼に託した。
「ルピは魔術以外でもモナ様に育てられたようなものなんです。直ぐに会話が出来るようになったルピは、莫大な魔力の操作をモナ様に教えこまれ、現在に至ります」
本来ならフジョーシ国では十五歳にならなければ仕事に就くことは出来ない。
しかし大陸戦争が始まってしまい、治癒魔法を使える者の手が足りなくて困り果てていたフジョーシ国は、ルピに助けを求めるしか無く、モナの監視の元ならばと特例を認めた。
当時成人前だったテッドも、家庭教師により王立学園で学ぶことは全て修得済みだった為、ルピと共に治癒魔法の要員として良い働きを見せていた。
途中彼には攻撃魔法も使えることが判明し、此方も特例として特別騎士団への配属が認められた。
当時は史上初の未成年最年少魔法騎士が誕生したとして、世間を大いに賑わせていたものだ。
「ルピは自分が怪我をさせた過去に今でも罪悪感を持っていて、攻撃魔法が使えないんです。モナ様も苦手だから問題はないと仰ってくれています」
絶大な魔力を保持しており、四大魔術師の一人でもあるモナが、魔法騎士にならなかったのも、攻撃魔法を使う際に躊躇してしまうからだった。
「そうだったのか……教えてくれて有難うな」
「ふふっ。ルピをからかった男の子ってケントなんですよ。彼はルピのことが大好きでしたからね……それに気が付いたと同時に僕の失恋も決まりました」
苦笑いをするネオの頬にはエクボが出来ており、ルピには無いものなのでハルは新鮮に思った。
ケントは呪術が解け、顔色を変えてここへ戻って以来、ずっとネオから離れず彼をサポートしていたので、諦めるのはまだ早いとも思う。
「今でも好きなのか?」
「……はい、例え彼がルピを好きでも僕はケントがずっと好きです」
「じゃあさ。グイグイ押してみれば良いじゃん。人生は一度きりだからね……普通は」
半分の年齢に戻って人生をやり直しているハルは稀な存在なので、やはり本来なら一度きりの人生を後悔しないように生きた方が良いのだと、単純なハルは思っている。
「あはっ。ハル様の団長への愛はコシが強いですもんね。僕も頑張って見ようかな……」
相変わらず夕食の場でもリバーダルスの横に寄り添って離れなかったハルは、無心に食べ始める前まで人目もはばからずに彼への愛の押し売りに忙しかった。
「おい、ネオはいるか?……あぁ、話し中でしたか。すみません……あの団長がネオを探していたので」
「ケント!?えっと今すぐ行くよ!……ハル様も体が冷えないように気を付けてくださいね」
言うが早いかハルの手から空いたティーカップを回収したネオは、急いで部屋の中へ駆けて行ってしまった。
「さてと。僕も戻って寝るかな……ケントさ。君の好みのタイプってどんなの?」
「なっ!いきなりな質問ですね……僕の好きな子は……頬にエクボが出来る優しい男の子です。あの、ではハル様も部屋に入ってくださいね」
好きなタイプを聞いただけなのに、ケントの答えはピンポイントでネオのことを告げていた。
ハルは若いっていいねぇ……としみじみしながら直に生まれる恋人たちを心の中で祝うと、暖炉の熱が優しく迎えてくれる部屋の中へと戻って行った。
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