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話し相手と使用人②
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そんなふうに真面目にやったりさぼったり、執事長に怒られながらやっているといつの間に仕事は終わる。
また軽い集会をしてから、解散だ。
俺が部屋に戻るとドストミウルの姿は無かったが、代わりに違うおっさんがソファーで足を広げてくつろいでいた。
「やあ、カノル!仕事は終わったのかネ?じゃあ吾輩の相手をするといい、何故って?それは...とっても暇だからネ。」
そう言って茶目っけたっぷりに向けてきたウインクに、思いきり不機嫌な顔で睨み返す。
銀髪にちょび髭、黒いマントを羽織ったこのおっさんは、ギャリアーノ・イフ・なんちゃら、って名前のヴァンパイアだ。一応ヴァンパイアの王様らしい。
そしてドストミウルとは同盟関係で友達...らしい。どれほど仲が良いのかはよく知らない。屋敷には基本的に不法侵入している。
「暇ならヴァンパイアらしく人間にでも襲いに行けばいいじゃん。」
「そういうはしたない真似はもっと下位のヴァンパイアがする事サ。私はもっとこう部屋でくつろぎながら食事は取りたいものだね。」
「イカレヴァンパイア。」
「こんな所にいる君の方が相当イカれた人間だと思うがネ?」
そりゃあご最もだ。
いつもこんな感じで話しているが決して仲が悪いわけじゃない。ウザイと思う事はしょっちゅうだし始めは嫌いだったけど、今は心から憎んじゃいない。
「ドストミウルは仕事?」
「たぶんネ、私が来た時にはいなかったよ。」
「ふーん、じゃあ帰れよ。」
「言ったろ、吾輩暇なのー」
口をとがらせてそういうヴァンパイアを心から殴りたくなったが、くだらない事に労力を使うのも控えたいのでココは抑えることにした。
面倒ではあったが特にやる事も無いのでイフの話し相手をして時間を潰した。
流石のヴァンパイアの王も陽の光は苦手らしく、夜が開ける前には自分の家に帰る。
窓から飛び立つ姿を見送ってから、ひとつ欠伸をする。そろそろ布団に入ろうかと思って準備をしていると、部屋のドアが開いてドストミウルが帰ってきた。
「あ、おかえり。なんだよもっと早く帰ってこいよな、散々イフの相手する羽目になってクタクタだぜ。」
「うむ、それはすまなかったな。これから私の話し相手をする体力は残っているかね?」
「んー、正直あんまり...途中で寝てもいいならって感じ。」
「よかろう。君が眠りに着くまでで構わない。」
頼まれては仕方ないので俺はもうひとつの仕事をこなす。
使用人よりもはるかに楽な仕事。
ドストミウルの話し相手だ。
敵としてここに来た俺をドストミウルが殺さなかった理由のひとつ、それは話し相手をして欲しいからという事だった。これに関してはホントの所はどうなのかは知らないし、アンデッドに馴染んでしまった今では一番の理由では無いのかもしれない。
俺が支度を整えて布団に入ると、ドストミウルも浮遊しながら俺の隣で布団に潜った。
「この頃体調はどうかね。」
「悪くねぇよ、いい方かな。」
「今でも...人間の世界に戻りたいとは思わないか。」
カノルはそう聞かれて少しだけ目を伏せた。
「思わないね。戻るくらいなら死んだ方がマシだよ。それともゾンビにして働かせてくれる?」
「君が今の生活を楽しんでいる限りは、そういう事もする気は無い。」
「そりゃ残念。」
「人間として生きている君に興味があるんだ。アンデッドになってはつまらない。」
「また俺の音でも聞きたい?」
「嫌でなければ。」
ドストミウルはこうやって時々俺の心臓の音を聞きたがる。死者にとっては珍しくて面白い事なのだろうか。
ひんやりとした髑髏頭が俺の胸元に近づく。
額をゆっくりと胸に当て、俺の背に手を回して密着させるように抱き寄せられる。
初めの頃は怖かったけど、今じゃ恐ろしなさなんて少しも感じない。むしろ、母に縋る子にすら見えてきて、アホらしくて笑えるくらいだ。
「こうするのって、他のとっ捕まえてきた人間とかにはしないの?」
「しないな。引き裂いて心臓の動きが止まるまで眺める事はあっても」
「こっわ!鳥肌立つぜ。俺にはしないでね。」
「約束しよう。君には生きていて欲しい。」
「どうして?」
「...君と居ると楽しいからだ。」
「へぇー、俺はアンタのお気に入りってわけ。死の王に気にいられるとか、無敵感あるよな。」
「お気に入りか...そういう表現も適しているかもしれないな。」
「いつか急に捨てないでよ。つか、捨てる時は殺してくれな。約束。」
「君が望むなら考慮しておこう。」
「考慮じゃねーの、約束。俺が死ぬ時は、アンタが殺す、いい?」
「分かっている、約束しよう。」
そこまで言わせるとカノルは満足そうに笑った。
「ねみぃ...」
そう呟くカノルを見てドストミウルは頭を離した。
「そうだな、もう休むといい。」
「うんじゃ、遠慮なく寝るな。おやすみー、ドストミウル。」
「おやすみ、カノル。君がよく眠れるよう祈っているよ。」
「へんな夢を見なきゃいんだけど...」
そう言ってから目を閉じたカノルの髪を、ドストミウルは長く細い指で優しく撫でた。
指の触れる感覚を感じながら俺はうとうとと眠りに引きずられて行った。最近はこうやってドストミウルに構われていると心が落ち着くな、と思う。そりゃ俺の事を助けてくれた奴だし、なんか気に入ってくれてるみたいだし、なんだかんだ優しい。
もちろん屋敷の他のアンデットだって、仲の良い奴はいるけど、それでも心の距離が一番近いと感じるのはドストミウルなんだろう。
人間との絆を絶ってしまった今、俺の頼れる絆はここにしか存在しない。
そんな事を考えながら、俺は心地よく眠りについた。
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