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街へ行こう!③
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宝石屋はどっと疲れた。
ドストミウルは店員と話し込むし、細かい装飾を選ぶためにいくつも試着させられるし、ドストミウルも微妙にデザインに凝りやがって色々指定してくるし。
結局はオーダーメイドで作る事になり、受け取りは後日となった。
金持ちの買い物は恐ろしい。
宝石店を出た所で、ドストミウルはまた女に声をかけられた。今回は五人だ人数が多い。
揉まれるように囲まれて、腕まで掴まれてしまった。必死にかわそうとしているようだが女の方も必死なようで今回は時間がかかりそうだ。
俺はドストミウルの側からそーっと離れて、少し離れたの人気のない路地に入った。人混みにいるとやはり疲れる。少しだけでいいから、こういう場所で休みたかった。
俺は懐から小さな袋を取りだした。
先程の店で指輪を注文するついでに、初めの方で見ていたピアスも買ってくれた。別に要らなかったのだが何かしら俺に持たせて帰らせたかったみたいだったから、コレにした。穴でも何でも開けてやるよと言い切ったが、今になって少し面倒な気もしてきた。
「久しぶりに街に出られた記念だしな。飾っておくのも悪くないか…」
誰にも聞こえないくらいの独り言を呟いた。
「へぇー!お兄さん、それってあの宝石屋の袋じゃん!!」
気がつくと三人の大男に囲まれてていた。
皆手に大小の剣を持っている。
強引に小さな袋をむしり取られる。
手が震えるのが分かった。
何か言い返してやりたい気持ちはあったのだが、体が思うように動かなかった。
ナイフを突きつけられて襟元を掴まれる。
思考が止まって自らの内側から、恐怖が溢れ出てくる。
「あーあ、ボクちゃん震えちゃって...ほうら持ってるお小遣い出しておくれよ。」
今は使い魔も働かない。
「動かなくなったぜ。怖すぎて体が動かないーってか?ははははっ!!」
声も出ない。
「ちょっと遊んでやろうぜ。」
この恐怖感はもちろんこんなちんけなチンピラに向けられたものなんかじゃない。
自分が生んだ恐怖だ。
カノルは大男に乱暴に掴まれたまま、更に人気のない路地へと引きずられていく。
金目の物を探して俺の身ぐるみを剥いだ大男達は、自分達の鬱憤を晴らすように俺を殴った。
一発、頬に当たる。
口の中に血が滲んで鉄の味がした。
二発、肩に当たる。
骨が軋むほど痛かった。
三発、腹に当たる。
囲まれた時から過呼吸になって苦しいってのに、更に酸素が取り入れにくくなった。
後はよく覚えていない。
痛いのと苦しいのと、色々苦痛はあったけどいちいちそれを認識する余裕はなかった。ただ彼らに向けられたものでは無い、漠然とした恐怖に襲われていた。
突然、拳が飛んでこなくなった。
と、同時に男達が倒れ込む音が聞こえた。
殴られて腫れた目をうっすら開けると、そこにはグローディアの姿があった。ひどく悲しそうな顔をしている。
「すまなかった...」
すり潰れたような声でそれだけ言うと、グローディアはカノルを抱き上げた。
抱きしめられて、こちらもしがみつくとやっと緊張がほぐれて深い呼吸が出来た。
それと同時に涙が溢れてきて、恐怖を全て吐き出すようにどうしようもないくらい泣いた。
目が覚めるといつもの布団の上だった。
体はあちこちが痛む。だが、動けないほどではなかった。
体を起こし軽く見回す。暗いし夜みたいだ。
アリアなら呼べば来てくれそうだが、やめておいた。
ドストミウルの姿も見えない。
「ってぇ...」
体の色々な所が痛むが、手当はしてくれたらしく包帯やらガーゼやらが貼られている。魔法治癒能力のあるやつが居ないのがアンデット族への最大の不満だ。
しばらくぼーっとしていたらいつもの化け物の姿をしたドストミウルがすごい速さで飛んできた。
「カノル!...痛むかね。すまなかった、私がもっと警戒していれば...」
「楽しかったぜ、街。まあ思ったよりって程度だけど。」
そう笑顔を作って頬に力を入れると少し傷んだ。
「カノル...」
「一人でふらふらした俺も悪いし、気にすんなって。買いたいもんは好きなだけ買ってもらったし、ちゃんと助けに来てくれたじゃねぇの、それで十分だろ。」
ドストミウルは俺に体を近づけた。
「あ、あと、ピアスな後で開けてくれよ。ちゃんと拾ってきたろ?やられっぱなしであれも捨てちまうんじゃ負けた気がして嫌だろ。」
「私が開けるのかね。」
「当たり前だろ、アンタが買ったんだから。むしろこんだけ傷だらけの今なら、ピアスの穴くらいなんともねぇからチャンスだと思うぜ。」
俺がそう笑ってドストミウルを見たが、彼の目は暗かった。
「君があの時死んでいたらと考えると恐ろしい。」
「死の王が、何恐れてやがんだよ。」
カノルは先ほどまでとは違い表情を殺して鋭くそう応えた。
「...君の言う通りかもしれない。しかし、私は...」
「ぐだぐだ言ってねぇで、さっさと俺を殺せばいいだろ。それで済む話じゃねえの?」
今度は真面目な顔でドストミウルを見つめる。
目の奥の小さな光がゆらりと動くのが見えた。
「君は、今でも死を望むか...」
「死ぬ事を望んじゃいないさ、アンタとの約束が果たされることを望んでるだけ。」
ドストミウルの細い指がカノルの首元に触れる。
「せっかく指輪を頼んできたのだ。それを付けてからでも...遅くはないだろう。」
「ま、それもそうだな。休暇長めにくれよ。旦那様。」
カノルがいつもの調子で口の端をあげると、ドストミウルは体を離した。
「いいだろう。今回は私にも責任がある。きっちり休暇を取らせよう。だが、カウンセリングも受けてもらう。」
カノルはふっと、息をふきだした。
「まじかよ...笑えねぇぜ。」
そう言って俺は笑っていた。
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