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大切な貴方へ①
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「ねえ知ってる?明日は花の日だよ!」
「はなのひいぃ?」
嬉しそうに話しかけてきたメイドの先輩ダディアリアとは対象的な態度で俺は返事をした。
「好きな人とか、大切な人にお花を送る日だよ。カノルも人間の街でやってなかった?」
まあ、そんな行事があるのは何となく知っていたがしっかりとやった事は無い。送る相手も送る暇もなかったし、直ぐに枯れる花なんて買ったところで意味もないと思っていたからだ。
「そんなめんどくせえ事しねえよ。」
「カノルはそういう所つまらないなー。私はね、どうしよっかなー」
「愛しの彼にあげるんだろ?」
「えと...どうしようかな。」
アリアは急に恥ずかしそうに声を小さくした。
実はここ最近アリアは好きなやつができたらしい。そいつは同じ使用人仲間のゾンビで、前髪が長くて顔が見えない無口な男。アリアが使用人を始める前からいるらしいが、非常に存在感が薄く、俺も話したことはほとんどない。アリアは気になって話しかけられないらしい。
「俺が誘ってきてやろうか?」
俺がからかってそう言うと、思い切り肩を叩かれた。
「そういうデリカシーの無いことは絶対にやめてよね!」
本気でキレられたのでそれ以上からかうのはやめることにした。
そんなこんなで今日の仕事は無事に終了。俺はドストミウルの部屋という名の自室に戻った。
今日はドストミウルはいなかった。
明日も居るのかどうかは知らない。執事長に聞けば分かるんだけど、別にわざわざ聞く必要もないかなと思っている。
今日も俺は広すぎるベットで昼が過ぎるのを待つのだ。
夕方になって少し賑やかになって目を覚ました。仕事、と思ったが今日は非番だ。
起きて周りを見回してもドストミウルの姿は見えない。
今日は仕事じゃないし、ドストミウルがいくつか仕立ててくれた中から私服を選んで袖を通す。
一歩廊下に出ればアンデット達で賑わっていた。
「あ、カノルだ!」
「寝坊だ!」
「今日休みなの?」
走り回る布を被ったチビお化け達が近づいてきて取り囲まれる。
「今日はメイドじゃねえよ。」
「じゃあ、遊ぼう!」
「森へ行こう!」
「庭でゾンビ打つのは?」
特に予定を決めてなかったから少し考える。
「今日は...散歩するかな。森で。」
「一緒に行こう!」
「一緒に行こう!」
「一緒に行こう!」
「やだよ。お前らが勝手に付いて来るならいいぜ。」
「やったー」と飛び跳ねるチビ達を引き連れて俺は屋敷の外へと出た。
門から森に出ようと思ったらど真ん中で草むしりをしてる奴がいた。
「なあ、そこちょっと動いてくんない?」
そう声をかけると、そいつは慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんね。」
俺より背が高いくせに、そいつは申し訳なさそうに俯いて背中を丸めていた。
よく見たらそいつは昨日アリアが話していた想い人だった。
「仕事お疲れな。...お前名前なんだっけ?」
「ギドだよ。忘れたらまた聞いてくれよ、カノル。」
「おっけ。あ、そうだ、お前さアリアの事知ってる?」
お節介だとは思いながら世間話の一環として聞いてみる。
「ダティアリアでしょ。知ってるよ。君たち仲良さそうだよね。」
「仕方ねぇじゃん指導係なんだし。...アイツって可愛いとか思う?」
「あっ、か、可愛いよね、すごく。いつも仕事きちんとしてるし、髪も綺麗だし…とっても。」
恥ずかしそうにさらに俯いて、早口でギドはそう言った。
こりゃ脈アリだなと思って背中を軽く叩いてやった。
「たまには話しかけてみれば?花でもくれるかもよ、じゃ、またなギド!」
俺はそう言って門を出た。
森へ入ってからはしばらく獣狩りをした。夜行性の動物を狙って弓で射抜く。昼間よりは見えにくいが、いい練習になる。
仕留める度にチビ達が喜んでくれるし、回収もしてくれるこんな楽な狩りはない。
しばらくそんな事をしていると飽きたのかいつの間にかチビ達はいなくなっていた。
俺も休憩がしたくてどこかいい場所はないかと歩き始めた。そう言えば近くに景色のいい野原があった気がする、少し前にドストミウルと散歩した場所だ。
少し歩くとそこを見つけることが出来た。
案外近くにあったその場所には、月明かりに照らされてたくさんの草花が揺れていた。
柔らかい草の上に寝転ぶと、夜の風が草を優しく鳴らした。
「静かだな…」
ふと横を見たら綺麗な赤色をした花が咲いていた。花なんてちゃんと見たことがないが、こいつは茎も太いし、花びらも複雑な形をしていて面白い。近づいて匂いを嗅ぐとふわりとした甘い匂いがした。
部屋にでも飾ろうかと思って摘み取ってみる。アリアもこうやって花を選んでギドにあげるんだろうか、死んでるのに恋心があるなんて不思議なものだな、なんて考えていた。
「カノル。」
聞き覚えのある声に立ち上がって振り返ると、何故だか死の王サマが野原にちょこんと浮いていた。なかなか笑える光景だ。
「おつかれ、ドストミウル。」
声をかけるとするっと滑るように近づいてきた。
「こんな所に居たのか。」
「探した?」
「少し、な。」
ドストミウルは俺が持っていた花を見た。
「やろうか、アンタに。」
「...それは。」
「今日って、花あげる日なんだってアリアが言ってたぜ。今摘んだやつだけど良ければやるよ。」
俺が差し出した花をドストミウルがそっと受け取った。
「ありがとう、カノル。君から貰う初めてのプレゼントだ。」
「あ、そうだっけか?まあいいや、俺そういうのよく分かんねぇし適当に処分しておいて。」
気が抜けたように笑う俺に対して、ドストミウルは表情もなくこちらを見つめていた。
ドストミウルは花をマントの裏にしまうと沿うように近づいてきた。
「体も冷えてしまうからそろそろ部屋に戻ろうか、カノル。」
「今動いてきたし冷えねえよ。あ、もしかしてまた仕事行くかんじ?」
「いいや、無いわけじゃないが急ぎではない。」
「そう。うん、じゃあ帰るか。」
「行こうか、カノル。」
俺達はくだらない会話をしながらゆっくりと屋敷へと帰った。
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