アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
吸血トランス!?①
-
俺の考え方はこうだ。
人間に裏切られて死んだ事になっている奴が今更どう足掻いても人間の世界には帰れない。アンデッドの世界で受け入れられて普通に生活出来ているならそれ以上は望まないし、人間と関わらなくても生きていけるんだから無理に関わる必要は無い。
でも、ドストミウルは違うらしい。
俺が人間と関わるか関わらないかは問題じゃなく、心的外傷として残っているものを少しでも和らげることで自覚のない傷ついた精神部分を治すべきという考えらしい。
全く理解できない訳じゃないが、無理強いするのも違うと思う。
いくら俺がカウンセリングをサボったからって首根っこを掴んで、保護者気取りで医務室に向かうのは筋が違うってもんだ。
そんな経緯を経て、俺とドストミウルは部屋で睨み合っていた。
「だから、ムキになってやる事じゃねえだろって言ってんだよ。」
「少し強引にしなければ、君は今後も行かない可能性がある。」
「アンタが強引だと余計に行きたくなくなるね。」
「カノル、君は今だって時々悪夢にうなされることがあるだろう。そういう部分にも効果が出ると思うのだ。」
「今の所出てないんですけど!」
「これから効果が出るかも知れないという事だ。」
「いい加減しつけえな!」
「私は君のためを思って言っているのだ。」
ふむふむ何やら波乱の予感。
なんだかんだいっていつも仲良しの二人が熱くなって言い合いをしているようだ。こういう時こそこのヴァンパイアの王ギャリアーノ様の出番であるナ!
部屋の前で聞き耳をたてていたギャリアーノは勢いよく扉を開けた。
「やあやあ二人とも今日は珍しく本気ゲンカだね?」
「ギャリアーノ、すまないがこれは私とカノルの問題だ口を挟まないでくれ。」
ドストミウルの真面目な反応に残念そうな顔を浮かべたイフだが、カノルは目が合うと違う反応が見えた。
「そうだ!そんなにカウンセリングが嫌なら私の城にでも来ないかね、カノル。」
「何を言うかギャリアーノ、カノルがそんな...」
「おっ、いいじゃねえかイフ。アンタんち一回行ってみたかったんだよなぁ!」
カノルはドストミウルを一瞥すると、口の端をひきあげながイフの方に体を向けた。
「それなら話が早い!今すぐ遊びに来るといい、なんなら気の済むまで泊まって行ってくれたまえ。私の城にはカウンセリングなんて大層な仕事はないからね。」
イフは近づいて来たカノルと当たり前の様に肩を組んだ。
2人は背を向けて部屋を出ようと歩き出す。カノルは一度だけ振り向きドストミウルを見た。
「んじゃ、そゆことで俺はギャリアーノ様のお世話になることにするよ。じゃあな、ドストミウル!」
カノルはドストミウルに舌を出して見せた。
今夜も夜風は冷たいが、こうやって吸血鬼に抱えられていると余計寒く感じる...風が防げるだけ少しはマシか。
イフは俺を例のごとくお姫様抱っこで抱えて
屋敷の割れ窓から飛び立った。
「まさか、誘いに乗ってくれるとは思わなかったよ。」
「傲慢な主君は大切な部下を逃すって事を身をもって知ってもらわなきゃなんねえからな。本当腹立つあの化け物の王様。」
「それも確かにそうかもしれないネ。ドストミウルは力も強いだけあって逆らう奴なんていないからな、いい灸になるかも知れない。」
「...わりーな、巻き込んで。」
「ちっとも!君には一度遊びに来てもらいたかったからね、何日でもゆっくりして欲しいのは本音さ。愚痴でも何でも聞いてあげよう。」
そう聞くと少しだけ安心できた。
正直賭けみたいなもんだったが、イフの話が冗談じゃなくてよかった。
かくして俺はイフのお家に着いた訳だが、この家は俺の予想を上回っていた。
俺が居候しているドストミウルのオンボロ屋敷とは違って、まさに城という外観。古い感じはあるがそれがまた歴史的価値観を増長させている。
ドストミウル邸の倍はあるかという庭は綺麗に整備され、美女の彫刻や噴水なんかがあり、花壇には薔薇が敷き詰められている。
イフはドストミウルと同盟を組んでいるが、位的にはドストミウルの方が上という雰囲気がある。だが、イフもイフでヴァンパイアという種族の頂点にいる訳だから、この絢爛な住居にも納得が行くわけだ。
ちょうど庭の真ん中あたりに降り立つと、数人の人影がよってきた。
「お帰りなさいませギャリアーノ様!」
寄ってきた女が数人揃ってそう言った。尖った牙と背中から出ている黒い羽根、まあ皆ヴァンパイアだなと言う感じ。でも、みんな背が高くすらっとしていてスタイルがいい、そして、とにかく美人だ。
「出迎えご苦労、子うさぎちゃんたち!今日はお客さんがいるんだ、人間だけどちょっかい出しちゃダメだよ、私の客人だからネ。」
そう言われるも女達の視線は俺をじっと見ていた。
「えー、可愛い!若い男の子なんて遊びたくなっちゃいますぅ!」
「ちょっとだけ触っちゃダメですかぁ?」
「お姉さんと遊びたくな〜い?」
そんなふうに熱い視線を送られると、嫌な気はしないが...よく考えろ、ヴァンパイアにとって人間なんておもちゃか食い物にしか見えないんだぞ。つまり、こいつらの遊ぼうはかじらせてか食わせてだ、と自分に言い聞かせる。
「ほら、この子はドストミウルのラヴァーだから、ちょっかい出したらダメよ。」
そう聞くと何故か女達は急に真面目な顔をして一歩下がった。
「部屋にワインと適当に食べ物用意してくれるかネ。果物とか普通の物でいいから。」
「かしこまりました。」
女達はさっきのふざけた様子とは違って、綺麗にそろって頭を下げた。
え、なんでこんな急にかしこまったんだ。もしかして、ドストミウルの名前が出たから...な訳、あるのか?
かくして俺はイフの部屋に招かれたのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 50