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恐怖の対象
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今日も本気で嫌がる手前までカノルの鼓動の変化を楽しんだ。
自覚もしているが、きっと私は彼の鼓動を生を感じたいだけでは無い。もっと体と心の深い部分での繋がりを求めている。
私はバケモノで、彼は人間だ。
その違いを憂いながらも、こうして繋がれていることにとてつもない充実を感じている。
私は汗ばんだ体のままベッドで眠りにつこうとしているカノルの顔を覗くように顔を近づけた。
「なに?子守唄でも歌って欲しいの?」
カノルは悪戯そうにこちらを見た。
「いいや、君の顔が見たかっただけだ。」
「そう。そういやあさ...アンタのその口元のって取れるの?それとも、動かない仕様?」
カノルはドストミウルの口元に触れた。
ドストミウルの口には、覆うように厚めの金属でできた格子状の口枷のようなものがついている。
「...外す事は可能だ。だが、きっと君からしたら醜い姿だろうから控えているのだ。」
「へぇ、面白そうじゃん。みせてよ。」
ドストミウルは何も答えなかった。
「見られたら俺に嫌われると思ってる?」
「その可能性を否定できない。」
カノルは口枷に指を掛けて下げるように軽く力を入れた。
「後悔するぞ。」
「後悔するなら、バケモノ屋敷で働き始めた時にとっくにしてる。」
確かにカノルはこの屋敷のアンデッド達を散々見ている。醜いものや異臭を放つもの、異形のものも多々見ているだろう。
だが、それはあくまで屋敷にいるだけの存在だ。こうして寄り添うほど近づく必要のないものだ。
「俺の事信用してない?」
「そういう訳では無い。」
カノルは分かっていてこうやって鎌をかける。
確かに今更何を心配しても無駄かもしれない。私が異形のアンデッドである事は変わらないのだから。
頬の辺りに魔力を込めると、ガシャリと重い金属音が鳴り口枷が布団の上に落ちた。
ドストミウルの口は人のように歯が並んでいるものの、その一つ一つは大きく、先は鋭く尖り、内や外に曲がるように不揃いに生えている。口端は耳元まで裂け、歯も端まで不揃いにならぶ。
そのするどい歯の間からは人より多くの無数の舌があり、長いものは粘液を垂らしながら蠢いていた。
「やっぱ口で喋ってるわけじゃないんだ。」
「うむ...」
カノルはその口元に手を伸ばし、動く舌に軽く触れた。舌はその指に粘液をまとわりつかせながら絡まりつく。
「見せてた方が強そうだけどな。まあ、気にしてるなら口出しはしないけど。口だけに...」
口元を引き上げながらカノルはドストミウルを真っ直ぐ見つめた。
「...冗談かね。」
「笑えよ!嘘でもいいから!ったく、つまんねぇやつ。」
カノルは不機嫌そうに顔を顰めた。
「ワガママ言って悪かったな。見せてくれてさんきゅー。俺は少し寝るよ。」
カノルが指を離す。
「気を悪くしなかったか。」
「うん、別にって感じ。気にしすぎじゃない?誰かに指摘された事でもあるの?」
「そういう訳では無いが...」
カノルはドストミウルの頬の辺りにもう一度手をかけてから、尖った歯にそっと唇を押し付けた。
「もっと自信持てば?仮にも王様なんだし。じゃあ、おやすみ。」
そう言って笑うと背を向けて布団を被ってしまった。
「か、カノル。」
もう一度カノルに触れようと布団に手をかけると、思い切りその手を叩かれた。
「寝るつったろうが、もうお触り禁止。」
そっぽを向かれたまま強めにそう言われてドストミウルは手を引っ込めた。
そして、少し小さくなってから大人しく布団に潜り込んだ。
その心の隅に湧いていた彼に嫌われるという恐怖は、彼を自らの欲で殺してしまわないかという恐怖に変わっていくようだった。
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