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時は過ぎている①
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今日も俺は真面目に使用人の仕事をこなす。
掃除に、片付け、揉め事の仲裁にに内蔵の返却。何だかんだ掃除なんかよりアンデッド達のいざこざの方が多かったりするのが難な所だ。
落ち着いて仕事がしたくて人気の少ない場所の掃除をかってでた。とは言ってもゴーストなんかは前触れもなくすり抜けて言ったりはする。
初めの頃に比べれば俺もずいぶん慣れてしまったものだ。今では一々アンデッドの異常行動に驚くことも無ければ、怖がりもしなくなった。
なんというか平和なものだ。
なんて考えてながら歩いていた瞬間、靴の下で嫌な感覚を覚えた。おまけに小さくぷちっ、と音がした気がする。
「ま、ずい...」
これはまずい。
恐る恐る靴を浮かせると、小さな蜘蛛が無残な姿で床にめり込んでいた。
息を飲みながら振り向くと、背後には体を虫の巣窟にした女が何も言わずにたっていた。
「すーっ、すまんヅアリエ!わざとじゃないんだマジで!本気で気が付かなくて、ごめん!」
カノルは手を合わせ頭を下げたまま数歩後ずさった。
ヅアリエは何も言わなかった。ただ彼女の周りのハエたちはうるさく回っていた。
「あの、怒って、ますよね?」
カノルは合わせた手の隙間から恐る恐る虫達の母を見た。
ヅアリエはゆっくりと潰れた蜘蛛に手を伸ばすとひとつの欠片も零さぬように優しく拾い上げた。
「彼は、もう衰えていたの。生あるものはいつか朽ちる。死を纏う私が彼らを愛するのは矛盾しているかしら。貴方は彼と同じ...。」
枯れた小さな声でそう言い残すとヅアリエは向きを変えて去っていってしまった。
てっきりヒステリックな恨み節をぶつけられると思っていたが、何事もなくて逆にあっけに取られてしまった。使い魔を恐れての行動って感じでもない気がする。
「なんだかな...。」
カノルは肩の力を抜くようにため息をついた。
星をも埋めるような闇が深い夜、死の王は同盟関係にある吸血鬼の王の城にいた。
二人はテーブルに対峙し、飲み物を片手にリラックスした様子で談笑をしていた。
「いやぁ、本当にまいるよネ。人間なんてろくな奴が居ない、いくら敵対してるからって何言ってもいい訳じゃ無いでしょ。粗野な人間には敬意ってもんが足りないよ、実に下品で無礼だ。」
ギャリアーノは不快な表情を浮かべながら、数日前に戦いになった人間への不満を語った。
「結局の所敵は敵としか認識しないのだろう。一度敵だと認識してしまえばそれはただの悪にしか見えない。敬意など微塵もなくただ憎しみでしか相手を見られないのだ。」
ドストミウルは静かにそう賛同を述べた。
「君のお気に入りもなかなかのものだと思うが、よく君は彼の態度に怒りを覚えないよネ。感心するよ。」
「カノルの事か...。彼の反抗的な態度は私を試しているのだ。」
「試している、とは?」
ギャリアーノは髭を撫でながら興味深いとでも言うように前のめりになった。
「ああ見えて彼は常に不安を抱え、同胞無き世界で心の拠り所を探している。私に信頼を寄せたい一方で異種である事の懸念を拭いきれないでいる。彼は荒い言動をあえてぶつけ、それを私が許す事で信頼を感じているのではと思うのだ。」
「...君も意外とそういう事考えてるんだね。」
わざとらしく眉をあげると、吸血鬼はグラスの赤い飲み物を一口飲み込んだ。
「でも私は違うと思うよ。アレに一々そんな事を気にする脳は無い。そう思う所があっても所詮は当て付けで、元々そういう性格なんでしょ?信頼というよりは甘えでは?」
「それもまた然り。」
ドストミウルは深く頷いた。
「私と二人きりの時は素直な時もあるのだ、稀ではあるが。」
「あー...君、そうゆうのなんて言うか知ってる?」
ギャリアーノは口の端を上げた。
「まあ別に良いんだけどサ。君達がどうあろうと吾輩には関係ないし。でも...」
吸血鬼の王は少し真面目な顔をして死の王の顔を見つめた。
「本当の所、君はあの人間をいつまで手元に置いておくつもりなんだい?」
「いつまで...か、」
「愛着が湧いているのは分かる。だが、朽ちるまで庇護する気?いっそ今のうちに動く死体にするか、剥製にでもしたらどう?」
ギャリアーノはにんまりとふざけたように笑いを浮かべた。
「お前にしてはつまらない冗談だな。」
ドストミウルはいつものような表情のない声で答えた。
「はぁー...何も考えていないんだネ。正しくは、考えられない。」
少し呆れた表情を作りギャリアーノはわざとらしく肩を竦めた。
「...」
「猶予は永遠だとは思わない方がいい」
「分かっている。」
死の王はただ闇を見つめた。
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