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自覚①
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昔、一度だけ女に告白されたことがある。
いつも男勝りなそいつが、急に顔を赤くして俺の事を好きだと言った。
俺はそれを少しも受け入れることなく断った。
彼女の言葉を遮るように拒否した。
恋愛に興味もなかったし、弟達の生活費を稼ぐのが一番の使命だと思っていたから考える余地もなかった。
女は寂しそうに頷いて、それでもこれからも仲良くして欲しいと言った。もし、生活と心に余裕が出来たらまた考えて欲しいと言った。
その時は女がどんな思いで告白したとか、どれほど悩んだとか、断られてどう思ったとか気にも止めなかった。
もしも、もしもだ。
あの時彼女が今の俺みたいな気持ちを背負って告白していたのなら、俺は本当に酷い振り方をしたんだと思う。
彼女はその後も何事も無いように話をしてくれたし、俺を嫌わなかった。そう思うと彼女の器はでかかったんだろう。
ここ数日、俺は夜も眠れない程悩んでいた。
まあ、元々不眠気味だから悩んでいるせいで眠れないかは定かではないんだが...
それでも仕事にもいまいち身が入らず、だからといってサボる気も起きず。結局の所いつもより真面目に仕事をしていたから、執事長に褒められたくらいだった。
ドストミウルとは、割と普通に話している。
あの日部屋を飛び出して気の済むまで一人で考えた訳だが、いつまでも練習場で篭っている訳にも行かず部屋に戻った。
ドストミウルはその事を追及はせず、別の話題を切り出してくれていつも通りくだらない話の相手をしている。
気を使ってくれているのか、気にしていないのか、どちらなのかは俺には分からない。
今日は仕事終わりに珍しくアリアとギドが並んで話をしていた。
目が合うとギドが一歩近づいて話しかけてきた。
「あのっ、お疲れさまカノル。」
「おつかれさん。なんだよ、見せつけてくんじゃん。」
「うん、最近アリアと仲良くなったんだ。カノルのお陰だよ。ありがとう。」
ギドの唯一見える口元が笑みを浮かべていた。
「俺のお陰ってのは違うと思うけど、まあ仲がいいのはいい事だと思うぜ。」
アリアも寄ってきて俺の顔を見た。
「カノル、大丈夫?最近元気ないみたいだけど。」
「気の所為だろ。」
「そう?仕事ちゃんとしてるし、どこかおかしいのかなって心配で...」
「ひでぇ評価だな全く。」
じっと見つめてくるアリアから俺は視線をそらした。
二人は恋人同士になったのだろうか、どちらが愛を告白しどんな気持ちで受け取ったのだろうか、そんな事が頭をよぎった。
でもそんな事をわざわざ聞く気になれず、俺はそのまま二人の前を通り過ぎた。
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