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これじゃあ、まるで②
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体を揺すられて目を覚ました。
目を開けると人の姿をしたドストミウルがこちらを見ていた。
「今夜はここで休もう。」
深く帽子をかぶってから馬車を出て辺りを見回すと夕方だった。なんだ屋敷じゃこれからが本番じゃねえの、と思ったが今は屋敷の中ではなかった。
よくよく見るとそこは小さな町だった。
少し古風なレンガでできた三角屋根の家が立ち並ぶ。見覚えなない街だったから、王都からは離れているのだろう。夕方ということもあり、町を歩く人もまばらで多い様子はない。
「宿の部屋を取っておいた。布団で眠るほうがいいだろう。」
「いや別に...」
と言いかけたが、今まで馬車の中で寝ていたせいか体中が痛かった。
「二人部屋でよかったかね。それとも、もっと広い方が良かったか?」
「ん、べつになんでもいいよ。二人部屋だと、ヂャパスの爺さんは?」
「彼は馬車の見張り番だ。」
「ひでえ主だな、可哀想にー」
棒読みで答えるとドストミウルはくすりと笑った。まあ、いつも棺桶で眠ってるような包帯の化け物がどこで寝ようと変わらないだろう。
宿はなんて事はない、平均的にくたびれた宿だ。宿屋の爺さんは笑顔で接客してくれるし、奥さんの婆さんの手作り夕食朝食付き。ドストミウルにしては随分庶民的な宿選びだなとは思ったが、軽く町を見た感じで言うとここしか無かったというのが理由な気がする。
くたびれた宿にしては料金は割高な気もするが、金持ちの旦那様からすればいくらだろうと関係ない話だろう。
宿には他にも客が数人いたが、ドストミウルがすべて話しを付けてくれたお陰で俺はだれとも目を合わせずに部屋に入ることが出来た。食事も簡単な物にしてもらい受け取って部屋で食べるようにしてくれた。
お陰様で気分もそこまで悪くない。
部屋でぱぱっと食事を済ませベッドに転がってみると、古びたベッドの木枠が情けないような音を出して軋んだ。
「こう見ると屋敷のベッドは優秀なんだな。」
「そうだな。私が選んだ訳では無いが、ここの物よりはいい品のはずだ。」
人の姿をしたドストミウルは食事をとった椅子に座ったままこちらをみて微笑んでいた。
「あと、屋敷のコックも優秀だよ。ここの婆さんの飯も不味くはないけど、特別美味くもない。」
「そうか、後で彼女も褒めておこう。」
「あ、うそ、あの料理長って女だったの?」
思わず俺はベッドから体を起こした。
「知らなかったかね?」
「うん。姿もちゃんと見えないし勝手に男だと思い込んでた。」
俺の驚いた顔を見てドストミウルは笑っていた。
「もう休むかね?」
「いんや、日々昼夜逆転してるせいか全然眠くねぇんだよな。つか、さっきも寝てたし。」
「では、話をしようか。」
「いいよ。」
ドストミウルは俺の隣に座った。
「出来れば目的地に着く前に、はっきりと聞いておきたいことがあるんだ。」
「はいはい、なんですか?」
「君は、私の事をどう思っている。ふざけないで答えて欲しい。」
真剣な眼差しで見つめられて、俺は反射的に目を逸らした。
「どうって、命の恩人で、ボスで...」
明確な答えを心の奥に秘めながら、俺はいつもより小さめな声でそう答えた。
「君は私の何になりたい?」
ドストミウルの眼差しは尚も刺さるようにこちらを見つめている。
「何って?」
「部下か、使用人か、それとも...」
珍しく口ごもったドストミウルの様子に思わずそちらを見た。
ドストミウルは口元を歪めていた。
それはまるで、照れているみたいだった。
見たことの無い表情に、俺は思わず声を出して笑ってしまった。
俺はドストミウルの胸元を掴むと額が当たるほど引き寄せた。
「じゃあさ逆に聞くけど、アンタは俺の何になってくれるの?」
カノルは面白がるようにそう聞いた。
「君の為になら、何にでもなろう。」
ドストミウルは真剣な目でこちらを見つめたまま目を細めた。
「私は...愛しているんだ。君の事を。」
それを聞いてカノルは思わず手を離して、硬直した。
心臓が飛び跳ねるというのはこういう事なのだろう。何となくそういう話に傾くことは想像出来ていたはずなのに、むしろ望んでいた言葉のはずなのに、何故か突然心を撃ち抜かれたように驚いて頭がパンクするように混乱した。
ドストミウルは耳まで赤くなったカノルの頬を優しく指でなぞる。
「あっ、ばっ...」
「君は私を愛してくれるだろうかと、ここの所ずっと考えていたのだ。人間の君に私の気持ちは迷惑だろうと重々承知だ。だが、出会った時から募るこの気持ちを今では愛以外に定義できなくなってしまった。私は君を独占したい、君の唯一でありたい、そう思っている。」
ドストミウルは自分以上に困り焦ったような顔でこちらを見るカノルの顎を掴み、やや強引に一つ口付けをした。
「こうやってわたしが触れても君が拒否しないから悪いのだ。勘違いであっても君から愛されていると思ってしまう。」
「あ、あのなあ!俺だって嫌だったら拒否してるし、ぶん殴ってるよ!」
カノルは赤い顔のままドストミウルを睨みつけた。
「でもさ、なんかこう合点が行かなくて。おかしいじゃん魔王四天王の一人が、最上位のアンデッドが、何で俺の事好きになる訳?俺がアンタを好きになるならまだしも、何で最強のアンタがただの人間なんか好きになるの?全然理解できない。」
「巡り合わせとはそんなものだ。」
ドストミウルはカノルの頬に手をかけたまま少し落ち着いた顔で微笑んでいた。
「アンタは...今じゃ紛れもなくオレの一番大切な存在だよ。帰る所もない俺の一番居心地のいい場所だよ。愛してるとか臭い言葉使うのは苦手だから出来ねえけど、でも、俺は...」
カノルは唾を飲み込んだ。
「アンタの一番だったら嬉しい、とか思ってるよ。」
ドストミウルは困ったようにそう言うカノルを抱きしめた。
「分かったよカノル。私達は十分に分かり合えていたのだな。」
カノルもドストミウルの背に腕を回して力強く抱きしめた。胸元に顔を埋めると今までにないくらい幸せな気分に浸れた。
俺達の好意は向き合っていたものの、それを確かめないまま進んできた。それを定義する必要も無いと思っていたし、信頼関係の延長線だと思い込んで片付けようとしていた。でも、こうやってドストミウルに言葉にしてもらうことで、二人の間にあった薄い壁が壊れた気がした。
愛とかっていうのはよく分からない。
でも、俺は誰よりもドストミウルが好きで、ドストミウルは誰よりも俺が好きなんだ。
つまり、そういうことなのだろう。
自然に唇を求め合うと、ドストミウルはベッドにカノルを優しく押し倒した。
「君の鼓動が聞きたい。」
「はあ?素直に言えよセックスしたいって。」
「そうだな。君と深く愛し合いたいのだ。」
ドストミウルはまた深くカノルに口付けをした。
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