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転機①
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この頃ドストミウルは屋敷に居ることが少なくなった。言わずとも忙しいのが分かるほどに、屋敷にいても急かせかと動いている。
今日もモップにもたれ掛かりながら、部屋の前で執事長と話をしているドストミウルを遠目で見ていた。
少し話をするとこちらに気を向けることも無く、また何処かへと飛び去ってしまった。
そう言えばフィンロウに行く前、これから忙しくなると言っていたしその通りなんだなと思った。
薄暗い地下室、ホウキを壁に立てかけたまま俺は石段に寝転んでいた。
「カノル仕事はどうした。」
顔のない地下の番人は呆れたようにそう言った。
「休憩中です。」
「休憩時間はとうに終わっているはずでは...」
「邪魔なら出てくよ。」
「そっ、そういう訳で言ったのではない。」
ゲイルは焦ったようそう答えた。
俺は起き上がると何をするでもなく、壁の小さな炎を見つめた。
「カノル、機嫌でも悪いのか。」
「いんや別に。暇だなと思って。」
「主様は忙しそうだな。」
「...うん。」
「辛いか?」
俺は無いゲイルの顔を見つめた。
ゲイルは人の姿になって近寄るとゆっくりと近づいてきて隣に座った。
「...しない」
隣にいても聞き取れないくらい非常に小さな声でゲイルは何かを呟いた。
「何て?」
俺が聞き返すとゲイルは首を横に振った。
「主様の心はいつもお前と共にある。寂しさが募らせる愛もある。」
「意外にロマンチストだよな、アンタって。」
ゲイルは優しく笑っていた。
「そういや...聞いてくれよ、昨日のギドのドジった話」
「それは面白そうな話だな。」
ゲイルはじっくりと俺の話を聞いてくれた。
次の日、俺は練習場で弓を打っていた。
指がなくなった分弓を支えがひどく不安定になった。薬指が抱えていた重さを他の指で補う分負担も増えた。
力一杯引いた弦が押しだした矢は、的を大きく外れて壁に刺さる。帰ってきてからはずっとこんな感じだ。
俺は薄いため息をついた。
何に使う訳でもない弓だが、今までこだわっていた分落胆する部分も多い。
俺はもう一度矢を手に取る。
左手に余計に気を張って集中する。
...上手くいかないのは指のせいだけだろうか。
真っ直ぐとんだ矢は、的の端に当たり弾かれてから音を立てて床に落ちた。
カノルはその音に顔を顰めた。
俺はこの一ヶ月ドストミウルと話もしていない。
今日は仕事終わりに廊下で話をしているアリアとギドに会った。仕事が終われば使用人達も少しだけプライベートな時間がある。最近この二人はこうやって雑談している事が多い。
「おつかれー」
俺が軽く声をかけるとギドは驚いたようにこちらを見て、アリアはやんわりと手を振ってきた。
「お疲れ様カノル、」
「おつかれさま、カノル。」
俺も二人に軽く手を挙げた。
「ねえ、そう言えばちゃんと聞いてなかったけど、ふたりは付き合ってんの?」
「へっ、」
ギドは脅かされたように跳ねた。
「うん、そんな感じかな。」
ダティアリアは少し照れながらそう言った。
反応を見る限り、ギドに主導権はなさそうである。まさかアリアが告白したのだろうか。色々詮索したい部分もあるが後にしておこう。
「カノルも旦那様とラブラブでしょ!」
アリアが嬉しそうに同意を求めてきたが、俺は視線を逸らした。
「どうだかね。女子が想像するウキウキした関係じゃない気がするけど。」
そう言ったのに何故かアリアはニコニコしていた。
「大人な関係ということだ!」
俺はそれにも苦笑いして首を傾げるしか無かったが、アリアは一人で納得しているようだった。
「心が繋がってればラブラブだよ。」
アリアはとびっきりのスマイルでそう言った。
そんな話をした次の日も俺は弓を手にしていた。
俺はこの頃休日のほとんどを練習場で過ごしている。
ひたすら打ち続けても成果が上がらなかった。でも集中したい時にはいい、何も考えないで済むし、時間が経つのも早く感じる。
矢は的の端に刺る。
ドストミウルと顔を合わせなくなってから二ヶ月が経った。
「やあやあーカノル!元気?不元気?暇なら私とディナーなんてどう?」
今日は仕事から戻るとイフがドストミウルの仕事机にどっかりと座って偉そうに話しかけてきた。
「それやってて怒られない?執事長とかに。」
「怒られないさ!私はドストミウルの親友だからネ!」
「前から思ってるけどその親友の認識って一方的だったりしないの、ドストミウルからアンタが親友だって聞いたことないけど。」
俺がベストを脱ぎながらそう言うとイフは髭を撫でながら眉間にシワを寄せた。
「だってホラ、彼は吾輩意外に友達なんて居ないでしょ?」
確かに、イフ以外に友達らしい仲の相手は見たことがない。
「可哀想な奴。」
「死の王だし、基本的には同族以外寄り付かないよね。」
「お前が親友な事が可哀想だってこと。」
俺が笑いながらそう言うとイフは椅子を降りてこちらに向かってきた。
「怒った?」
「私は大人だからね、子供にからかわれたくらいじゃ怒らない。」
俺は首元のボタンを外しながらソファーに腰掛けると、イフも隣に座った。
「ドストミウルが今どんな状況か...話は聞いてる?」
急に真面目な顔をしてそんな事を言うものだから俺は急に不安になってイフの顔を見つめた。
「彼は君に何も言っていないんだネ。そんな事だろうと思ったけど...」
「なっ、なんだよそれどいう意味だよ!」
ここ最近ドストミウルを見かけることすらしなくなった。
それはドストミウルと顔を合わせなくなって、三ヶ月が過ぎようとしていた時の事だった。
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