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幽霊中本
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ある休日の昼下がり、ひとりの男が真っ白な着物を着て銀座の歩行者天国の真ん中でうろうろしているのを発見した。
「…何やってるの」
あまりに景色から浮いているのがいたたまれなくなった俺は、仕方なく話しかけてみた。
「君!僕のことが見えるのかい?!」
「そりゃ見えるけど」
「なんだって!やったー!」
「落ち着け」
大声でガッツポーズをされた。周りの目が気になって肩をつかもうとしたら、さっと避けられてしまった。
「どうやらみんな、僕のことが見えないみたいなんだよ!数時間前に幽霊になったのが原因だと思うんだけど…。君、名前は?」
「北見」
「北見くんかー!えーと僕は…」
「おい中本。お前銀座まで来てなんでこんな茶番をやってるんだ。友人として恥ずかしいぞ」
「………ん?」
付き合ってられず、会話をぶったぎって注意をしたら、中本はフリーズした。
銀座で幽霊ごっこをしているこいつは俺の幼なじみの中本だ。前から変なやつだとは思っていたが、ついにいかれてしまったらしい。
「えーと…僕の名前、何だっけなぁ」
「お前は中本だ。まだ続けるつもりか?」
中本は目をキラキラさせて俺の手を握った。
「僕どうやら記憶喪失みたいで、生前のことが何も思い出せないんだ」
「お前は中本だ。クラスの奴らからはタンメンと呼ばれている。俺の隣の家に住んでいて、小中高と同じ学校だ。最近の趣味は歌手の名前も読めないのにドヤ顔で洋楽を聴くこと」
「僕の記憶が戻るまで、一緒にいてくれないか?!」
「お前は中本だ。理科の授業で人間の体について習っている時に、精巣はどこについているのかと馬鹿みたいにデカい声で質問した中本だ。これで記憶は戻ったか?」
「さては信じてないんだな!僕が幽霊だって」
「まあな。幽霊じゃないからな」
中本は一瞬ムッとした顔をして、近くを歩いている人に話しかけだした。
「すいません!僕のこと見えますか?!おーい!」
「こら!やめなさい!」
慌てて人通りの少ないところに引っ張って行くと、中本はこの上なく得意げな表情をしていた。
「ほらほら。誰も答えてくれなかっただろう?僕は幽霊だからね。普通の人には見えてないからね」
「言っとくがあの場の全員がお前のことガン見してたぞ」
「じゃあひとまず、君の家に連れて行ってくれないか?」
「なにがじゃあひとまずだ。都合の悪いことは聞こえない耳なんて取っちまえ」
「じゃあひとまず、君の家に連れて行ってくれないか?」
「おいおい正しい答えを選ばないと進まないスタイルかよ。RPGじゃないんだぞ」
「じゃあひとまず、君の家に連れて行ってくれないか?」
「はいはいわかったよ!うちで何するの?」
「記憶をなくした幽霊と過ごすうちにふたりの間には友情愛情その他もろもろが育まれ、そして最終的には成仏という涙の別れが…」
「めんどくさっ。俺そんなに暇じゃないんだけど」
「……」
いかん。中本の目がうるうるしてきた。ちょっと言い方がきつかったか?
「えーっと…中本…いや、幽霊中本…」
「もういいもん!北見の馬鹿ー!」
中本はそう叫ぶと、白装束を脱ぎ捨てて走り去っていった。一瞬ぎょっとしたが、中には学校指定ジャージを着ていたようだ。
ああ、やっと終わった。今日の中本はいつにもまして変だ。なんかのドラマでも見たんだろうか。
なんてのんきに考えていたが、これが中本の奇行の始まりだったことを俺は次の日思い知ることになる。
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