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「ミツの友達……あいつと約束?」
「……はい。十二時にうち来てって」
「戻ってくるの昼過ぎって言ってたけど」
「え、マジすか。あ、じゃ、俺出直し……」
「約束してんだろ。入って待ってれば?」
「……や、でもご迷惑じゃ」
「いいよ、迷惑かけてんのミツだし」
してやられた。まんまと。
光哉に騙された。
日曜日。遊びにおいで、と光哉に言われた。
約束した時間に家に向かうと、いたのは稜さんと娘さんだけだった。
あれから一週間足らずしか経っていない。
玄関に出迎えてくれた稜さんは俺の顔を見てハッとする。名前こそ出してこなかったけれど、弟の友人だと覚えてくれていたらしい。
そして稜さんに言われるままリビングで光哉の帰宅を待機中。
……気まずい。
『今どこいんの
リビングにりょうさんとふたりで気まずいんだけど』
『もう少々お待ちください(*^^*)』
『ふざけんなはやく帰ってこい
おまえの部屋行ってていい?』
『だめ(*^^*)そこにいて(*^^*)』
空気がいたたまれないのと、実際光哉はどこにいるんだ、とラインを送り続ける。
確信犯ゆえなのは瞬時に察していたから。
……顔文字がウザい。
「あの、光哉いつ帰るか分かんないっぽいんで、俺一旦帰ります」
「あいつ分かんないって言ってんの?」
絨毯の上で娘と積み木で遊んでいる稜さんの背中に恐る恐る声をかける。
振り向いた稜さんの顔は、娘仕様の笑顔から一気に影を落とす。
……逆に器用だな。
「なんか……はい」
「はー……ごめんね」
「いえ、じゃあお邪魔しました」
呆れ顔の稜さん。
光哉のお節介め。
けど、やっぱりこの人の顔は好きだ。
カーテンの隙間から入り込む光に反射した髪色は金に近い茶色でキラキラして見える。
ブリーチしてないと出なさそうな色なのに、髪傷んでないな。
白いのに腕の筋肉すっげぇな。
動悸がする。緊張してる。
お節介だけど、堂々とこの人を見ていられる時間はありがたくも感じる。
そんなこと絶対光哉には言わないけど。ニヤニヤしながら余計に調子に乗りやがるに決まってるから。
「あ、えーと……ごめん、名前何だっけ」
「隼士です」
「そうだ、ハヤト。隼士くん、料理作れる?」
「……すみません、卵かけご飯くらいしか」
「だよな。じゃあ子供好き?」
「え、はい好き、です」
嘘。真っ赤な嘘。苦手っつーか、戯れたことがない。
接し方が分からない。
けど、否定は許されないと思った。苦手だと、お子様本人の前で言えないし、話の流れ的に期待するじゃん、なんか。
……期待ってなんだ、俺。
「なら良かった。俺飯作んねーといけないから、その間遊んでてくんない? 昼飯まだなら隼士くんも食えば」
「いっ、いやいや! そんなご迷惑かけらんないっす!」
「や、むしろ遊んでてくれると助かる。最近火のそばに来ようとしてて危ねーから」
「かっ、かしこまりました」
「じゃあよろしく。つーかミツに何聞いたか知らねーけど俺怖くないから」
「あ、いや……」
バレてた。
光哉はよく喋る。ザ、末っ子って感じだし、家でもきっとそうなんだろう。
あと、言わずもがな俺が態度に出やすいんだろうな。
「結菜。パパ、結菜のごはん作るから、あのお兄ちゃんと遊んでてくれる?」
「わかった。あそぶ」
「うん、ありがと。お兄ちゃんはやとくんっていうの。みっくんのおともだち。はやとくんにごあいさつして」
「みっくん、なかよし?」
「はじめまして、ゆうなちゃん。隼士だよ。みっくんとなかよしだよ」
やばい、やばい。やっべ、クソ可愛い。
結菜ちゃんとの話し方がめちゃくちゃ可愛い。
おこぼれで俺まで笑顔向けられてんの、やばい。
やっぱ、この人の顔、好きだ。
子供と話すのなんてどうすりゃいいか分かんねぇ。
けど稜さんの子供に粗相しないように、俺必死だわ。
「はやくん、ゆうな知ってる。えらいね」
結菜ちゃんからの挨拶を前に名を呼んだからか、感激されてしまった。
「隼士くん、嫌いなものある?」
「あー……トマト以外なら何でも食えます」
「ふっ、結菜と一緒じゃねーか」
お、おこぼれ笑顔!つーか、今のは俺に向けた笑顔!
ときめいてしまった。
マジでやばいんじゃねーの。
周りを固められ(というか光哉の独断だけど)、好きになってもいいよなんて、そんな空気作られたら、その気になってしまう。
本人がどう思うかなんて分からないけど、好きになるだけなら自由じゃん、なんて。
「はやくん、つみきする?」
「積み木? できるよ。何作ろうか」
「おうち」
「ゆうなちゃんのおうち?」
二歳児って意外と会話通じるのか。
ほっと胸をなでおろしながら聞き返す。
何言ってるか理解できないと、どう返せばいいのか分からない。
初対面の大人と話す方が簡単だと思っていたくらいだ。
結菜ちゃんはブンブンと首を横に振り、俺を指差す。
「俺の家? じゃー俺ははやとのおうち作るから、ゆうなちゃんもおうち作って」
「ゆうなの?」
「うん、ゆうなちゃんのおうち」
「おっけーぇ」
オッケー、だって。誰かの真似かな。
幼い子が英語喋ってる。そんな自覚ないんだろうけど、不思議な感覚。違和感が可愛くて、にやけてしまう。
俺は、真四角の積み木の上に、正三角形を重ねた。うん、家に見える。これぞ王道。
「できた」
「えーはやーい。まって。まってー」
「いいよ、待ってるよ」
「見ちゃだめだよー」
「うん、見ない」
小さな手と体で隠そうとする仕草が可愛らしい。
隠れっこなくて制作過程丸ごと見えてるんだけど、見てないフリ。
ああ、子供相手だと自然と笑顔になってしまうのが、分かる。
「できた!」
「お、じゃあ見せて」
「んふふー、はやくん見せてくーださいっ」
「はーい。はやとのおうちです」
三角と四角でおうち。誰が見ても分かるだろう、と自慢げに見せた俺に、結菜ちゃんはケラケラ笑い出した。
「おうちじゃなーいーーー」
「えっ、うそ。どこが?!」
「きゃははははっ」
「えっなんでっ?!」
ツボが分からん。
何が面白かったのか、変だったのか、結菜ちゃんの笑いのツボを刺激したようで、ケラケラと仰け反って大笑いしている。
しまいには耐えきれなくなったようで、絨毯の上にコロコロ転げて爆笑。
え、マジで何がどこがどうなってんだか。
まぁ、ハマってくれたのなら一安心だけれど。
「結菜、なんか面白いことあった?」
ふとリビングから顔を出し、稜さんが声をかける。
あまりにも大笑いしてるから気になったのだろう。
キッチンは換気扇が回ってるとは言えども、こっちのやりとりが聞こえないレベルではないだろうし、もしや俺の積み木のクオリティを見に来たのだろうか。
「ぱぱ見てー、はやくんおうちー」
すくっと立ち上がり、稜さんの元に駆け寄ると、はやとくんのおうちを指差し、また笑い出す。
稜さんの足にまとわりつく姿が可愛くて、パパと呼ばれながらまとわりつかれてる稜さんの姿まで可愛く見えるのは、なんというマジックか。
「ん? あーほんとだ、おうち。はやとくん上手だねぇ」
「じょうずー」
え、さっきおうちじゃないって笑い転げてたのに、上手ってどういうことだ。
どっちが正解だ。言ってることやっぱわけわかんねぇ。けどその訳の分からなさが可愛いってこれまたどういうことだ。
つーか、結菜ちゃん仕様の優しい声ではやとくん、て。
優しい表情のままで俺を見ないでくれ。
無理、やっぱり可愛い。
……光哉、早く帰ってきて。
「結菜、もうちょっとでご飯できるから積み木お片付けしといてくれる?」
「はーい」
なんていい子だ。パパの言い付けに良い返事。
結菜ちゃんはすぐさま稜さんのそばを離れ、積み木の前に座り込む。
それを見届けると、稜さんは再びキッチンへと戻っていく。
「えっ、もう、ですか?」
「うん、材料冷凍してたやつだから。結菜のお片付け見といてあげて」
「分かりました」
作り始めて五分くらいしか経ってないのに、早すぎる完成に驚く。
確かにレンチンする音は聞こえたけれど、それにしても早くてびっくり。
甘い匂いがしてきて、空腹を思い出した。
お片付けをし始めたかと思えば、それをすぐに忘れたのか、結菜ちゃんは再び積み木を組み立て始めてしまっている。
俺は稜さんに言われた通り片付けを促し、おもちゃボックスらしきものに全てを片したタイミングで、キッチンカウンターへ皿を置く音がした。
稜さんの作った昼ご飯は、そぼろ丼だった。
甘い匂いはそぼろ煮だったらしい。
料理の勝手が全く分からない俺は、解凍するだけでこんな立派な丼が短時間で出来上がることに驚きだった。
スープも共に用意されて、稜さんがテーブルの向かいに座った時に我に返る。
俺、何してんだろう。
光哉の策略にまんまと乗っかって、あろうことかいきなり手料理。
漫画やアニメ並みに上手いこと行きすぎな展開。怖。
「あ、俺ちょっと光哉にライン返していいっすか」
「あぁ、ごめんね。結菜、いただきますしよっか」
結菜ちゃんはいただきます、に合わせて両手を勢いよく叩き、スプーンを掴んだ。
俺は携帯をチェック。
光哉からのラインは来ていない。そうか、俺が返信してなかったからか。
『おまえどこいんの』
『今も稜ちゃんと一緒?\(^^)/』
会話が成立してない。
けどこの即レス来る感じ、きっとどっかで暇つぶししてるだけだ。
帰ってこようと思ったらすぐ帰って来れる位置にいるはず。
正直に言ったならば、余計に帰ってこなさそうな気もするけど、俺もこの空間が心から嫌なわけじゃない。
落ち着かないだけ。現実味のない状況に内心あたふたはしているけど。
だから現状に嘘つかず返信した。
『なぜか一緒にごはんたべてる』
『まじか!!!
ごゆっくり\(^^)/』
案の定、な返答。
「あいつどこいんの」
「あー……なんか、分かんないです……」
「はぁ? 意味わかんね。とりあえず飯食いな」
「ありがとうございます。い、いただきます」
ラインしといて分かんないって稜さんからしたらより一層意味分かんないよな。
光哉の企みが分かってしまう分、心無しか罪悪感が芽生えてしまう。
ひとまず、作ってもらった飯を温かいうちに食わないと失礼だと思い、携帯を置いた。
とは言え、この日の俺の行動は常軌を逸してたと、夜家に帰ってから羞恥心に似た後悔で苦しんだ。
昼飯食わせてもらった後、結菜ちゃんが昼寝をするというから、それに付き合った。
気付いたら俺まで寝落ちていて、目が覚めたのは夕方近く。
ようやっと帰ってきた光哉の声だった。
目の前にあった光景は、結菜ちゃんを挟んで向かい側に寝転がっている稜さんの姿。
稜さんも光哉の声で目が覚めたようだけど、和やかに川の字で寝てるって、俺どんだけ緊張感ないんだよ!
好きな相手を目の前に呑気によくぐーすか寝れたもんだ。
……好きな相手?
好き?
そんな簡単に。
彼の何を知っているわけでも無いのに。
数時間一緒にいただけなのに。
好きになって、いいの?
こんな簡単に、恋だと思ってしまって、いいのか。
友人が軽率に作った展開に、流されてるだけじゃないんだろうか。
羞恥心と高鳴りに塗れた感情を、恋と呼ぶことは許されるんだろうか。
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