アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8
-
「なんか母がすみません」
チャイルドシートの隣に座り、結菜ちゃんにこんにちはと挨拶をする。結菜ちゃんは母にしたのと同じように返してくれる。
車が発信して落ち着いてから、俺は稜さんに一言。
距離感がいきなり近すぎたはずだ。
「あぁ、全然平気。うちのお母さんも同じくらい元気だし。会ったことある?」
「何度かは。光哉そっくりですよね」
「だろ。顔も中身もそっくりでうるさい」
バックミラー越しに目が合う。
先程の困り顔とは違って自然な笑顔に見えた。そうであって欲しいという欲もあるのかもしれないけど。
稜さんは父親似なんだろうか。
話題が見つけられず聞こうかと思ったが、親子に関して聞くのは、結菜ちゃんが誰似だとか際どい流れになりそうで怖くてやめた。
俺からそんな話を振ることはできない。
クソガキの俺には、万が一さらけ出してくれたとしても対応できる言葉を掘り起こせる気がしなかった。
そもそも、知らないんだ俺は、気の利く言葉なんて。
「隼士くん、ケーキもありがとう。お母さんに伝えといて」
「とんでもないっす。俺男一人なんで女の子だって聞いて浮かれて作ってただけなんで」
「それもお母さんと一緒だ。うちも男三人だし。結菜、隼士くんのママがケーキ作ってくれたんだって。隼士くんにありがとうって言おうね」
ちょうど信号待ちで、稜さんは振り返る。
結菜ちゃんは窓の外に向けていた視線を稜さんに移し、それから隣に座る俺を見た。
「はやくん」
「はい、はやくんです」
「えらいね」
「んふっ、偉い?ありがとう」
上から目線な言い草が可愛くて思わず吹き出す。
「結菜、えらいねは違うでしょー」
「ちがわない!」
稜さんは笑いながらそう教えるものの、速攻否定された。
信号を気にしながらも振り返っては優しい顔を見せる。
ケーキを作ったのは実際母だし、お弁当を作ると言われたからせめて何かしなければ、と思っただけ。
だから俺的にはいいっちゃいいんだけど、間違って変な言葉覚えても困るもんな。
「最近何でも偉いね、の一言で片付けようとするんだよね」
「可愛い。可愛いね、結菜ちゃん」
「ゆうな、かわいい!」
そう言えばはじめて挨拶をした時も、俺が結菜ちゃんと呼んだだけでえらいね、って言われたな。
結菜ちゃんは照れるように笑顔を作って両手を頬に当てる。
え、ほんと可愛い。
子供というのは相容れない会話の交わせない対象だと思っていたけれど、案外分かってるものなんだな。
微妙に伝わりきらないところも可愛い。
「偉いねぇ、結菜ちゃん」
「ゆうな、えらい!」
「こら、むやみやたらに偉いって言うな。また真似する」
「あ、すみません……」
分かってくれると、伝わってくれると嬉しくて言ってみたところ、稜さんに怒られてしまう。
うわ、最悪。
「あ、いやごめん。光哉に言うノリで言っちゃった」
ずーん、と心が沈み切る手前。
稜さんははにかんだ。
本気で叱られたかと思ったから、安心と同時に結果嬉しくなってしまった。
信号が代わり、車が再び動き出す。
ハンドルを持つ稜さんの左手薬指。キラリと光る指輪が目に入って、また心が落ちた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 11