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屋根付きのベンチは既にファミリーや子連れのお母さん達で賑やかに埋まっていて、俺たちは少し離れた芝生の上でレジャーシートを敷いていた。
リュックはなんでもボックスのようにウエットティッシュやら結菜ちゃん用のストロー付き水筒が中から出てくる。
淡いピンク色のそれといい、同世代の男子が持っていたら女子力高い、と言われそうな準備の周到さは、奥さんの名残を感じた。
サンドイッチをご馳走になる。結菜ちゃんは早々と食べ終わるなり、広い芝生の上を駆け出す。
「結菜、あんま遠くダメだよ」
「あいっ!」
稜さんの言い付けに、結菜ちゃんは片手を上げしっかりと返事。
「俺、一緒に遊んできます」
「いいよ、大丈夫。見える範囲だし。隼士くんもまだ食べ終わってないだろ」
「あ、あとで食います! 稜さんは留守番お願いします」
「留守番て。ありがとう」
周りは芝生だけとはいえ、心配だし。
作ってもらったものを中途半端に食うのも失礼だし、稜さんが大丈夫と言うから大丈夫なんだろうけど。
サンドイッチだから後でもいける。
常に結菜ちゃんに付きっきりの稜さんにのんびりしてもらいたい気持ちもあって、咄嗟に立った。
留守番、という言葉に稜さんはほのかに笑ってじゃあ、と頼んでくれた。
自発的ではあるけど託してもらえたことが嬉しくて、俺は結菜ちゃんの後についていった。
「結菜ちゃん、はやとくんと遊んでー」
「おっけーぇ」
何とも上から目線で可愛らしい許可をいただき、俺は結菜ちゃんに着いてゆく。
とは言っても結菜ちゃんが行く先々を追いかけるだけだけど。
子供ってのは好奇心旺盛だ。
そして怖いもの知らず。
知らないからこそ、だ。
向こうの方で遊んでいる親子の元に一目散に駆けて行っては、パーソナルスペースなんてぐいぐい乗り越えて近づく。
衝突しそうになったのを慌てて止めて、すみませんなんて謝る俺。
いいえ、と言って笑ってくれるその子の母親らしき人をじーっとガン見。
大人に近づくと、それが出来なくなる。
近寄りすぎて変に思われないか、とか。凝視して何見てんだよと思われないか、とか。
相手の行動を想像してしまうからこそ、出来ないことが増えてゆく。
それが知識というものなんだろうけど、そのせいで年々臆病になっている気がする。
大人になれば、さらに色んなことを学んで、怖さが逆に減ったりするのかな。
……稜さんは、どうなんだろう。
大切な人を亡くす以上に怖いことなんて、あるのだろうか。
ちらりと振り返り、稜さんの方を見る。
結菜ちゃんが走り回ったおかげで結構離れたはずだ。
……なんか、おかしい。
遠いとはいえ、裸眼で見えない範囲じゃない。見通しも良いし、俺は目も悪くない。
レジャーシートからこっちを見ていると思っていたけれど、どう見たって蹲って見える。
昼寝……なんて風にも見えない。
なんか、変だ。
「結菜ちゃん! 抱っこ!」
「えー?」
数歩先を行く結菜ちゃんを大声で呼び止め、抱き上げる。
初めて抱き上げた結菜ちゃんは思ったよりずっしりと重くて、抱えて走るのは至難の業だった。
けど、只事ではなさそうな稜さんの様子に、重さなど構わなかった。
急に抱き上げ走る俺に、結菜ちゃんは楽しそうにケラケラと笑う。
笑ってくれていい。
俺の余計な心配を結菜ちゃんに勘づかれたら困る。
「稜さん!」
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