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1話「誘われた」
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「ミヤー!!」
少し掠れたような声。
小さい体に似合う細い腕が、こちらに向かってブンブンと振られているのが見えた。
3限と4限の間の、10分間と言う短い休み時間。
その最中、廊下は人で溢れ帰り、賑わいを持っていた。
「?・・・あー、庄司ー!」
こちらも同じようにブンブンと腕を振り返せば、小走りに駆け寄って来た。
庄司文夜(しょうじふみや)。
聞いた所では千田と同じ留年生で。今は同じ3学年。
「ミヤ、お前英語の教科書持ってへん?」
「はあ?お前真面目に授業受けないだろ・・借りる意味あんの?」
聞き慣れない関西弁と会話するのがちょっと楽しい。
庄司とは2年の後半から仲良くなった。
俺のデカい図体が目についてむかつくということで絡んで来たのが始まりで、俺も俺で騒がしくて楽しい庄司と話すのが楽しくて関わるようにしてきた。
そんなこんなで続いて来た友達関係が、何だか面白いものになっているわけで。
「ええからよこせ」
「えー」
「よこせ言うてんねん!」
「じゃあ帰る前に返しに来いよ。お前また貸ししまくるから後々面倒になる」
「わかってるわそんなん。信用無いなー」
溜息1つついてから、そういうところをちゃんとしない目の前の男を睨みつけてからすぐそこの自分のロッカーに手を伸ばす。鍵の番号をカチカチ言わせて合わせてから、青色のドアを開いて中から英語の教科書を引きずり出した。
「ほれ」
「ぁい、どうもー。後で返しに来るわー」
「早くしろよ」
せかすだけ急かすと「へいへい」とか何とか、またあの掠れた声でいいながら去って行く。そういえば、庄司はバンド活動をしているらしいけどまったくもってその歌を聞いた事が無い。あの小さい体のどこにバンドのボーカルを勤める肺活量があるのかも知らないが、アイツ本当に普段から歌っているんだろうか。
(想像できんな・・)
並愛高校、第3学年。
受験を控え、それぞれが将来をどうしたらいいかと悩んでいる時期。
誰が、どの道に進もうか。
そういう時期。
「宮崎」
凛と響いた声に、胸が躍った。
閉め終わったロッカーの鍵の番号をギャリギャリと回転させて終わった頃、その声に呼ばれて左を向いた。目の前にいるのは、もちろん千田愛(ちだめぐむ)。
「おー、移動教室?」
「そう。何か急に違う教室になった」
ニコッと笑って言う千田に、またギクッと心臓が変な音をたてた。
千田愛。
現在、俺が片想い中の相手。
「そっかそっか。いってら〜」
へらへら笑ってそう言うと、「おー」と手を振られる。
俺の横を過ぎ去って行った千田の後ろを、教室からやっと出て来た沢野が追って行く。
「おう、大ちゃーん!急に移動教室だってよーウチのクラスー」
「いま千田から聞いたわ。早く行けよ」
「つめったーい!じゃいってきまーす!」
そう言って、去り際に沢野は俺のケツを引っぱたいた。
パンッ!と妙にいい音が廊下に響く。
「いって!!」
思わず尻に手をあてる。
「ぁ、宮崎ー!!」
「えー?」
痛めた尻を摩りながら教室の後ろの入口から中に入ろうと言う時、また千田の声がして。邪魔なロッカーの影から顔をひょっこりそっちに出しながら廊下の先の千田を見た。
「どしたー?」
大声で返す。
「今日帰りどっか行こ!!」
「!」
久々だったのかもしれない。
それに、この間でかけたときは確か沢野や本原たちがいたから、余計に久々に感じたのかもしれない。
「○○たちと、どっかいこ!」。こういう誘い方でないときは、大抵2人きりで遊びにいく誘いっていうことで。
だから。
だから余計に嬉しくなったのかもしれない。
それは久々な、千田からの遊びの誘いだった。
「おー!行こー行こー!!ホームルーム終わったら教室行くー!!」
「わかった待ってるー!」
廊下のあっちとこっちで、そんなことを大声で話し合ってから。
千田が廊下の角をまがるのを見届けて、俺は教室の中に入った。
次の時間は確か現代語だ。
今日はサボらず、ちゃんと話を聞いていよう。
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