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始まりは突然にやってくる。
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暖かい春風が頬を撫でる。
散り始めた桜が空を舞い、小鳥が音楽を奏でていた。
目の前に広がっているのはどこまでも続く青。
今日は、いつも閉まっている屋上の非常階段が何故か空いていた。
ここに来たのに意味は無い。
春を感じようと思いここに来たが、気が付けば1歩間違えれば落ちそうなところに立っている。
今日は本当にいい日だ。
目の前に真っ白な鳥が飛んで行った。
俺もあの鳥のように自由に飛べるだろうか…。
…まぁ、そんな勇気は生憎ないのだが。
「お前、こんな所で何してんだ」
振り向くと校内1のヤンキーと言われている佐澤くんが立っていた。
見た目が派手で周りのみんなからは恐れられている。
校内では殺人をした、他校の奴らを全員タコ殴りにした、薬物をしている、などという悪い噂ばかりたっている。
俺自身、彼のことを脅威の対象として見ていた。
「おい、お前に聞いてんだよ。」
俺を睨みつけている。
普通なら怖い、と思ってしまうだろうが、
俺は何故か彼が綺麗だと思った。
春風なびいている綺麗な金色の髪。
数十センチ下から見下ろす長いまつ毛。
真っ青の空と俺だけが写っている瞳。
綺麗だ。
「おい、しかとしてんじゃねぇぞ。」
俺は彼に見惚れていたらしく話を一切聞いていなかった。
当然かなりご立腹の様子だった。
「何って別に…。ちょっと風にあたりたかっただけだよ。」
「風に当たりたいからってそんなとこ立つかよ」
確かにそうだ。
今の俺の状況を見たら誰だって俺が飛び降りる5秒前だと思うだろう。
流石に目の前で飛ばれたら後味が悪いのか。
だから声を掛けてきたのかもしれない。
「お前、見たことあるな。」
まさか佐澤くんが俺の顔を覚えているなんて信じられなかった。
俺はクラスでも目立たない、所謂陰キャだ。
いつも誰とも話さず教室の端で音楽を聞いて過ごしている。
「3年間、同じクラスだからね。」
可能性として考えられるのはこれくらいだろう。
「そうかよ。
つか、変なこと考えんじゃねぇぞ。」
意外と優しいところもあるんだな、と思ったが
その直後、彼の言葉に衝撃を受けた。
「俺は命を大事にしない奴は嫌いだ。
命を簡単に捨てるやつは許せねぇ。」
彼が寂しそうな、
悔しそうな顔をしていた。
彼がだ、あの彼が、あの恐れられている彼が。
命を誰よりも軽く見ていると思っていた彼が。
誰よりも命の重さを理解していたのだ。
金槌で頭を殴られたような衝撃がはしった。
この人を独占したい。
この人の全てを。
この人の命を独占したい。
俺の中の何かが壊れた。
「じゃあさ、僕が飛ばないように毎日ここに来て。
僕が飛ぶのを阻止してよ。
じゃないと今ここで、君の目の前で、飛んであげる。」
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