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「アリエル、こっちだ。」
城を抜け出し、路地裏でアデルバートと落ち合った。
俺と同じ半人魚で、魔女がみんなを洗脳した時は海の中にいたために影響がなかった、唯一のこの国の人間だ。
「……また痩せたな。」
頬を撫でられ、目を伏せる。
「きちんと食べてるのか?」
「……食べてる。でも、昨日は吐いちゃって……」
今まではなんとかやり過ごしていたのに、昨日ついに吐き戻してしまった。
さすがに使用人たちが心配そうな顔をしていたけれど、大丈夫だと押し切った。
「……もう、あの城を出て、海に戻るのはどうだ…?お前の父上も、いつでも帰ってこいと言ってる。」
「……でも、俺…やっぱり、エリックのそばにいたくて…」
「エリックが、お前を見てなくてもか?」
その言葉に顔を上げると、アデルバートは酷くつらそうな顔をしていた。
「……ごめんなさい。」
「はぁ……謝んなくてもいいけどさ。」
ぎゅっと抱きしめられて、優しく背中を撫でられる。
久しぶりの人の温もり。
優しい手。
「……泣けば。今は、誰もいないし。」
特殊な力があるせいもあって、俺は泣くことを我慢してきた。
それをエリックが解放してくれたのに、気がつけばまた涙を我慢するようになっていた。
アデルバートは、それをわかっているらしい。
「お前、すぐ我慢するし。」
ポロポロと地面やアデルバートの体に涙が零れる。
地面に落ちた涙は、花を咲かせた。
枯れた草を青々と蘇らせた。
「……ため込めすぎだ、馬鹿。」
「ごめ、なさっ……っ、ごめ、……さいっ…」
強く抱きしめられて、アデルバートの胸元に顔を押し付ける形になる。
「……あんま垂らすと、バレる。」
「っ、ぅ……ごめん、なさいっ……」
止まらない涙と、謝罪の言葉。
アデルバートは、その全てを包み込んで、吸い取るかのように抱きしめてくれた。
*
「泣いたのですか?」
「は?え、あっ、え?」
城の部屋に戻ってすぐ。現れたディランに開口一番そう言われた。
「……何か、ございましたか。」
「あっ、いえ、何も。」
「誤魔化すのは下手なのですね。目が真っ赤ですよ。」
面倒くさそうに、けれど心配を滲ませてそう言うディラン。
なんて言い訳したら、ほっといてもらえるだろう。
「ほんとに、なんでもないですから。」
「……あなたは側室なのですよ。何かあっては、私が責任を負わされるのです。」
「……別に、構わないでしょ?」
思わず、零れた。
怪訝な顔をするディラン。
でも、止まらなかった。
「俺がいない方が、みんな幸せ。違う?」
ディランは、否定しなかった。
苦しそうな顔も、しなかった。
「俺は邪魔者。国王陛下と、女王陛下に害のある邪魔者。ディランさんも、カイさんも、みんなそう思ってる。」
また零れそうになる涙を、必死にこらえた。
何も無いところで癒しの効果がある涙を零したら、それは花びらに変わってしまう。
「……いっそ、追い出してくれればいいのに。」
この声は、きっとディランには届かなかった。
「……もう、お休みになられてください。失礼致します。」
部屋に1人取り残されて、俺は泣かないように、ぎゅっと膝を抱え込んだ。
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