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「……ホントにひっでえ。」
俺はアデルバートが暮らしている家にやってきた。
「……ごめんなさい…」
「はぁ……あのなぁ?だいたい何考えてたかとか、わかるけどさ。だったら海に戻ろうぜ?」
「……でも、それでも苦しいままだよ…消えたら、楽に……」
「……ったく、もう涙も出ねえじゃねえかよ。なんっでここまで我慢すんだお前は!」
強い口調なのに、抱きしめてくれる腕は優しい。
じわりと視界が滲む。
頬を伝った涙は、下に落ちても何にもならなかった。
「……無感情。」
「……へ…?」
「今のお前の涙は、無だよ。ただただ、苦しくて、流れただけの涙。お前の感情が乗ってねえの。」
「そ、か……」
「……なぁ。」
「……なに…?」
「…………いや、なんでもねえ。とりあえず飯にするぞ。」
「……ん、わかった…」
*
そんなに、エリックじゃなきゃダメなのか?
思わず、そう言いそうになった。
でも、飲み込んだ。
それを聞いたら、こいつは苦しそうな顔で、うん、って言うに決まってるから。
片想いしてたときだって、そうだった。
俺なら、泣かせないのに。
俺なら、そんなに辛い思いさせないのに。
そう言ったこともあるのに、アリエルは悲しそうに笑うだけだった。
その時俺は、悟った。
俺じゃ、ダメなんだって。
エリックが、アリエルを泣かせないように。
エリックが、アリエルに辛い思いをさせないように。
そうしないと意味が無いんだって、わかった。
少しずつお粥を口に運ぶアリエル。
本当は俺じゃなくて、エリックがそばにいてやればすぐ良くなるのに。
いくら洗脳されたからって、なんでこんなに思い出せねえんだよ。
なんで全部、忘れてんだよ。
言ってやりたいことはいっぱいある。
でも、アリエルが望んでないのもわかる。
だから俺は、せめて。
せめて、アリエルのそばにいてやりたい。
こいつがちゃんと、エリックと幸せな生活を送れることを祈って、今はただ支えてやる。
俺ができるのは、それだけだった。
*
「今死なれては困る……もっと、もっと絶望してもらわないと。」
ヴァネッサは水晶でアリエルの様子を見ていた。
「……もっと強い、絶望を。無感情では足りない……」
絶望の先にあるのは、深い闇。
あの子が秘めたる力を、私のものに。
ヴァネッサの野望は、アリエルを使った世界征服。
そしてアリエルを駒として使い終えれば。
「……あの子は、泡として消えるのみ。」
アリエルの持つ力を、アリエルが全て解放したあと。
アリエルは海の泡と消える。
人魚姫『アリエル』がならなかった、海の泡に。
『アースラ』がかけた、最後の呪い。
人魚姫『アリエル』の子孫のうち、特別な力を持って生まれた子、その力を使いし時、泡として消える。
それが魔女に受け継がれた、言い伝えだった。
伝説の魔女『アースラ』を葬った人魚姫への報いを果たす。
それがヴァネッサの最終計画だった。
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