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「いらっしゃいませ。」
連れてこられたのは、古めの仕立て屋さん。
「ご無沙汰しています。彼のドレスの仕立てをお願いしたいのですが。」
「これは……国王陛下。そちらは……」
俺を伺うように見てくる店主。
この、おじいさん、もしかして。
「ああ、側室です。お願いできますか?」
「もちろんでございます。採寸したいので、別室にお連れしても?できれば、おひとりで。」
「わかりました。我々はここで待ちます。」
にこりと微笑むおじいさんが、目だけで俺を呼ぶ。
店の奥の個室に入ると、おじいさんがこちらをじっと見つめる。
「『アリエル』様……ですね?」
「っ……!」
「国王陛下と、婚約なされた、『アリエル』様。わしが仕立てたドレスを、着てくださった、『アリエル』様だ。」
「どう、して……」
「はっはっ……歳をとるとね、色々なことができるようになるのだよ。」
それは、魔女の洗脳が効かなかった、もしくは防御できた、という意味だろう。
「国王陛下はまだ思い出されていないようじゃの……カイ殿は既にご存知か。」
「はいっ……」
「そんな顔をなさらないで。大丈夫、貴方様の優しさと、愛は、国民皆がわかっております。」
そっと頬を撫でられて、泣きそうになった。
「また貴方様のドレスを作れる日がくるなんて、わしは幸せだ。」
「おじいさんから貰ったドレスを……俺、ダメに、してしまってっ……」
いざ口にして、寂しさと申し訳なさから涙が溢れてきた。
「大丈夫、またお作り致しますよ。貴方様のためだけの、素敵なドレスを。老いぼれじゃが、腕には自信がある。」
「っ、ありがと、っ、ございますっ……」
深く頭を下げると、やめてくれ、と苦笑された。
「あなたは、『王妃様』じゃ。わしには頭を下げるのではなく、凛としていなされ。そしてわしのドレスを、美しく着こなしてください。そうすれば、わしにとっては最高の褒美です。」
あまりに嬉しい言葉に、次々涙が零れてくる。
「おや……困りましたなぁ……これは、早くドレスをお作りして、お詫びせねば。」
ほっほっ、と笑うおじいさんに、俺も自然と笑顔になる。
「さて、採寸致しましょう。」
「はいっ…!」
「うむ、前と変わっていませんな。これなら前の型紙が使えるでしょうし、3日程でお作りしましょう。」
「そんなに、早く?!」
「老いぼれに依頼するものは少ないんですよ。」
おじいさんはそう言って笑いながら、俺と一緒に部屋を出る。
その後、エリックとデザインの話をして、カイと依頼金の話をしていた。
その日はそれで店を出て、3日後、本当に完成したドレスを、王宮に持ってきてくれた。
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