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「エリック様っ……!」
泣きそうな顔で駆け寄ってくるアリエル。
対して、ルナは俯いてこちらを見ようともしなかった。
「何事だ?」
再び聞く。
「ルナ様が……」
その言葉を聞くと、ディランがルナの方に向かう。
「ルナがどうした?」
「ルナ様が、私に望遠鏡を投げつけてきて……」
あの、望遠鏡を?
そんなはずがない。
ルナは誰よりも心が優しい。
俺の話を聞いて、そんなことをするとは思えない。
「こんなもの壊してやる、と、壁に蹴りつけて……望遠鏡はもう壊れてしまって…私も、大きな怪我はありませんでしたが、打ちつけられて……」
目を潤ませるアリエル。
ルナに視線をやるが、ルナは相変わらず俯いたままだった。
「ルナ、何があった?」
極力優しく、そう訊ねる。
しかしルナは、一瞬顔を上げ、また俯いてしまった。
「ルナ?」
「……申し訳ありませんっ…大切な、望遠鏡を……壊してしまって……」
では、アリエルの言うことが事実か?
しかし、そうとは思えない。
どうしても、だ。
「……形あるものは壊れる。気にするな。望遠鏡は、また新しいものを選ぼう。」
「エリック様……?!彼は、故意に望遠鏡を壊し、私をも傷つけようとしたのでございますよ……?」
「……ルナは今日、色々とあった。お前は知らないかもしれないが、心が不安定なのだろう。許してやれ。」
「……っ……わかりましたわ。」
「今夜はルナについている。すまないが、1人で寝てくれ。」
「……はい。」
アリエルが塔を出ていく。
カイにそちらは任せ、ルナの方に向かう。
ビクリと体を跳ねさせるルナ。
「心配するな、怒っていない。それとも、俺が怖いか……?」
昼間のことで、不安定になっているのは確実だ。
あまり怖がらせたくない。
「……いえ…」
「……っ、ルナ様!手が!」
「どうした、ディラン。」
慌てるディランの声に、思わず駆け寄る。
「っ、ルナ、それを離せ!」
「ーーーッ…」
ブンブンと首を振るルナの手には、粉々になったレンズの破片が握られている。
「いいから離せ!」
血が滲み、ぽたぽたと垂れてきている。
「ルナ様っ!」
ディランも俺も、無理やり開かせようとするが、ルナは嫌がって、離そうとしない。
「ルナ!!」
俺が思わず怒鳴ると、ビクッ、と震えて、ぽたぽたと涙を零した。
それが、花びらに変わっていく。
「っ、なんだ、これは……」
「エリック様……ルナ様は、その、涙の意味ごとに力がございまして……」
「……これは、なんの意味だ?」
ディランが、黙っているルナを見やる。
その手には、まだ破片が握られている。
「……悲しみ、でございます。」
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