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茨が消えていく。
少しずつ、少しずつ消えて、黒い塊の中心から、アリエル様が現れた。
「っ、落ちる……!」
アリエル様の真下に向かって走る。
ギリギリ間に合って、体を受け止める。
アリエル様は、気を失っていた。
息がある。
そっと横たえ、エリック様の方に向かう。
「エリック様……!」
床に倒れ込んだエリック様。
出血がひどい。
「誰か!!!誰かいないか!!」
「……アリエルは?」
「心配いりません。」
「……そうか…良かった…」
「エリック様!」
「……なんだ…」
目を閉じてしまうエリック様。
待って。待ってくれ。
「ディラン!」
「カイ執事長…!」
「魔女は倒しました。アリエル様は?」
「ご無事です。でも、エリック様が…!」
騒ぎが収束したことで、使用人たちが続々と集まってくる。
そのざわつきで、アリエル様が目を覚ました。
「アリエル様っ!カイ執事長!アリエル様が目を覚まされました!」
キャンディの声に、振り返る。
「……エリック…エリックは……?」
フラフラとこちらに歩いてくるアリエル様に、何も言えない。
「……う、そ…エリック……エリック!」
エリック様に駆け寄り、頬を撫で、呼びかける。
「……アリ、エル?」
「エリックっ……まって、今、っ、泣く、から……」
もうすでに、目にいっぱい涙を溜めているアリエル様。
その雫が、エリック様に落ちる。
「……っ、なんで……なん、でっ……ねぇ、おれ、っ……いま、悲しいって、おもっ、て……る、のにっ……!なんで、なんでっ……!」
ポタポタと、次から次に零れる雫。
しかしそれは、何も起こさない。
「……アリエル…」
「っ、なんで、なんでよっ、やだ、やだっ……!」
「アリエル……」
「やだ、っ、えりっく、やだっ……!」
「シー……ほら、アリエル……だいじょうぶ……なくな。」
エリック様が手を伸ばす。
「……だいじょうぶ、だいじょうぶだ。」
エリック様の手が、拭っても拭っても、アリエル様の涙は止まらない。
「……だいじょうぶ…だいじょうぶ……」
エリック様は、アリエル様に声をかけながら、眠るように目を閉じる。
「まって、やだ……エリック…エリック!」
言葉が紡がれなくなり、アリエル様がエリック様にしがみつく。
「ねえ、やだ、やだよ……エリックっ……いやだ……エリック、えりっ、くっ……いやぁぁぁぁぁ……!!」
アリエル様の叫びを聞くのは、2度目だった。
魔女に襲われたあの日。
アリエル様を庇ったエリック様が倒れて。
そのショックで、アリエル様も気を失って。
そのあとは、もう、魔女の思い通りになって。
その魔女はいなくなって、もう、アリエル様が悲しむことなんて、ないと、そう、思ったのに。
「いやだ……いやっ……やだぁ…」
静かすぎる朝の街に、アリエル様の泣き声だけが聞こえていた。
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