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「人魚姫『アリエル』の子孫のうち、特別な力を持って生まれた子、その力を使いし時、泡として消える。
愛を忘れ、絶望したその時、子は力を発揮し、国は滅びる。」
後ろから声が聞こえて、振り返った。
「これが、言い伝えの全容でございます。」
そう言ったのは、仕立て屋の老父。
「貴方達が、アリエル様を信じ、呼び続け、愛を伝えたから、生きておられるのです。」
「アリエル様は、力を使い切る前に、愛を、思い出したから……ということですか?」
「ええ、カイ殿。魔女は見落としていたのですよ。昔から伝わる、『愛』という、強固な魔法をね。」
腕の中にいるアリエルを改めて見ると、穏やかな表情で、しっかり呼吸していた。
「私はお前を試したのだ。」
「試した……?」
「そうだ。アリエルがお前を助けたがるのはわかっていた。お前はどうするのか、見たかったのだ。アリエルの死を受け入れるようなら、アリエルは海に連れ帰るつもりだった。」
受け入れられるわけがなかった。
受け入れなければならないとしても、最後まで抗いたかった。
「それに、いくら魔女の魔法とはいえ、アリエルを散々泣かせたからなぁ。少し意地悪をした。」
いたずらっぽく笑うアリエルのお父様。
アリエルを陸に置く時、許してはくれたが、信頼を得られたわけではないとわかっていた。
どうやら、今、その信頼を得られたらしい。
「あれほど泣く息子は、初めて見た。それほど、お前を想っているらしい。」
アリエルをそっと撫でるお父様の手は、ものすごく優しい。
「お前に、アリエルを任せたい。この子の幸せは、お前と共にある。」
「……この命に変えても、お守りします。」
「ははは!お前の命を、何より大切にしろ。それが、アリエルの幸せに繋がる。」
「肝に銘じます。」
「アリエルをこれからも陸に置くにあたって、条件がある。」
「はい。」
「結婚式は、海でもやってくれ。」
そう言って微笑んだアリエルのお父様に、俺も微笑み返す。
「もちろんです。」
「アリエルは任せたぞ。」
「はい、ポセ様。」
最後に仕立て屋の老父とそうやり取りして、アリエルのお父様は海に帰った。
「アリエル様は、力を使い果たして、眠っておられるだけです。体力が回復すれば、自然と目を覚ますでしょう。」
「ありがとうございます。」
「目を覚ましてすぐは、体に不調が出るかもしれませんが、それもそのうちにおさまります。エリック様、よろしく頼みましたぞ。」
「はい。」
「ああ、忘れるとこじゃった。」
帰ろうとした老父が、パッ、と振り返る。
「このままでは、アリエル様が心を痛めるじゃろうからな。」
老父はそう言って、杖をひと振りした。
すると、茨が破壊した街も城も、元通りになった。
「わしからの結婚祝いと、思ってくだされ。」
老父はそう告げると、静かに帰って行った。
これで本当に、魔女との戦いは終結したと言えた。
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