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静まり返った保健室で2人。
ソファに腰かけた僕のもとに、保冷剤をどこからか探し出してきた彼が駆け寄ってきた。
「悪いな、変な事聞いた。目元真っ赤になってるから冷やせよ。」
「…ん、僕こそいきなり泣いたりしてごめん。」
「とーまは悪くないだろ~。」
保冷剤をタオルにくるんで瞼に当てながら、
窓の外を眺めてみる。
agateの最期は、桜が満開の温かな空気に包まれていたけれど、僕として迎えるメノウとの別れの日は、外がまだ少し寂しい。
この3年間、メノウが全てだったとしみじみ思う。
ゆか先生の存在を知ってもなお、この気持ちはとどまることを知らなかった。
日に日に増えるメノウとの思い出
日に日に増えるゆか先生への嫉妬心
こうしてメノウと再び巡り合えても
ずっと一緒に居る事は出来ない様になってんだな。
世の中ってそういうもんだ。
「僕はもう大丈夫だから、そろそろ戻れよ。」
ふと時計を見れば、もうすぐ最後のHRが始まる時間だ。
入学式で大迷惑をかけたこいつに、
卒業式まで迷惑をかけるなんておかしなものだが、
せめてHRくらい遅れないように教室に戻してやらないと。
「へ?戻れって…とーまは来ないのか?」
「こんな泣きはらした顔、メノウ先生に見せたくないし。
もう少しだけ赤みが引いたら行くわ。遅刻覚悟で。」
「なるほどな。じゃあ俺から遅れるって伝えとくわー。」
「んー、助かる。」
「じゃあな。」
手を振るあいつの影が消えると、
僕は一人ぼっちになった。
何となく、あの日の事を思いだして
窓際のベッドへ向かう。
スリッパも脱がずにベッドにダイブすると
少し硬いマットが僕の身体を包み込んだ。
ここに寝転がるのは今日で二回目。
あの時と違って意識もあるし、頭も痛くない。
今の僕は、完全なる”サボリ”だ。
少しだけ開いた窓から風が入り、
濡れた目元を優しく冷やしてくれた。
遠くでチャイムの音がする。
あぁ、始まったのか。HRが。
せっかく今まで頑張って来たのに、
最後の最後でメノウに迷惑かけちゃった。
でもまぁ、最後にメノウからお説教してもらうのもいいかもなぁ。
「……メノウぅ…。」
思わず口からこぼれたのは、愛しい人の名前。
その時、ふと頭の上に影がかかる。
ぼーっとしてた僕は、気付かなかったんだ。
僕の大好きな、絶対に聞き逃す事ない足音に。
「…もしかして俺が居ない所じゃ、
いつも呼び捨てなのか?」
「っ?!」
HR開始直後の今、居るはずの無い人の声がして
バッと勢いよく体を起こすと
そこにはやっぱり、メノウがいた。
スーツに身を包んで、綺麗に髪をセットした
元親友で、現、僕の大好きな人。
「安芸が体調悪くて死にそうだって聞いて来てみれば。
卒業式にまで担任呼び捨てかよ。いい度胸してんじゃねえか…。」
どこか懐かしいセリフに思わず笑ってしまう。
あの日と違うのは、今日が始まりではなく、
終わりだと言う事だ。
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