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「何かあったのか?3年間皆勤賞の安芸がこんな所で。」
静かな空間に、メノウの低い声が良く響く。
この声も、もうすぐ聞けなくなる。
「メノウ先生は僕の事たくさんほめてくれるから…。
最後くらい、お説教もされてみたくてさぼっちゃった。」
メノウの顔を見ると泣きそうだから、
僕はずっと腕で顔を隠したまま。
メノウはそんな僕の意味不明な体勢には何も触れず、
「なんだそれ」
と小さく笑ってくれた。
僕を心配して来てくれたメノウの
僕だけに向けて発せられる声
僕とメノウだけの空間。
お別れに向かうカウントダウンが始まっているというのに、僕はメノウの顔すら見れない。
泣かない様に、目に腕を押し付けて
耐えるのが精一杯だ。
「安芸…。お前には、沢山言いたいこともあるしさ。
ほら…卒業証書、渡すから教室戻ろうぜ。」
「……うん。」
「っはは、目真っ赤じゃねえか。」
僕が体を起こすと、ぽん、と頭に手を置かれる。
この手の温もりを感じるのも、これが最後かも知れない。
そう思うとまた涙が溢れそうで、
思わずその手を払い除けてしまった。
「ってぇ…。」
「あっ、ごめんなさ…!!」
力に任せて払ったメノウの手は、すぐ横にあった
棚の角に当たってしまい、筋張った手の甲にジワリと血が滲む。
うそ…、やっちゃった………。
涙なんか何処かに行ってしまって、頭の中はメノウに対するごめんなさいの気持ちで一杯になる。
でも何故かメノウは怒るでもなく治療を始めるでもなく
その場でケタケタと笑っていた。
「え、何…メノウ先生なんで笑ってんの…?」
「いやぁ…っはは。お前って本当猫みたいだわ。」
「へっ?、や…意味分かんないし…、ねぇほら、
絆創膏貼って教室戻ろう?みんな待ってるって!」
いつの間にかサボる側の僕が、その場から動こうとしないメノウを連れる形になる。
どうやらこの三年間で、無意識のうちに
真面目スキルが培われたらしい。
階段を半分くらい登ったところで、
メノウの手を掴んでいることに気付いた。
もちろんメノウが気にする訳もなく、突然手を突っぱねるのも不自然だから若干力を弱めたままメノウの手に触れ続ける。
ジワジワと、顔が熱くなるのを感じた。
これは事故だ。事故。
メノウが振り払わないのがいけないんだもん。
そんな事をブツブツと呟きながら、1年間毎日出入りした
扉の前で足を止める。
繋いでいた手を離し、この3年間で僕よりも少し目線が下になった彼と並んで教室に入った。
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