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生徒は1人ずつ、メノウの待つ別室へ呼ばれる。
証書を手渡し、ある人は今後の就職や受験について。
ある人は感謝の気持ちや思い出を語る、本当の本当に
最後の教師との面談の時間だ。
すなわち、僕がメノウと2人きりになれる最後の時間。
これを過ぎれば、数年に一度、成人式や同窓会で
顔を見ることはあれど、どれもこれも大人数に囲まれながらのものになる。
僕の為の時間を作ってくれる事も無ければ
目が合うことすら無くなってしまうかもしれない。
言いたい事は数え切れない程あるけれど
どれもこれも信じ難い内容だろうから。
僕が言える事はたぶん…
”ゆか先生とお幸せに”
それくらいな気がする。
あ、やばい。また涙出そう。
「なぁ、とーま。」
「…………何だよ?」
「俺は告白するぞ!」
「…いきなりどうした。」
僕が感傷的になっていたその時、僕の涙なんかには目もくれず、急に席を立った親友は、
今しがた証書片手に涙目で戻ってきた女生徒の前に立ちはだかった。
「好きです!!大学は距離離れるかもだかど、いつでも会いに行くし迎えに行くから俺と付き合って!!」
「「「ええぇ?!」」」
泣いてたやつも話し込んでたやつも
一斉にそいつの突然の告白に振り返る。
あまりクラスでも目立つタイプじゃなかったその女子は
予想外の展開に目を白黒させて困惑してる。
そりゃそうだろ、あのバカ!
「ご…ごめんなひゃんっ…ぁ…。」
ほらほら。
断った上に盛大に噛んじゃったじゃん、女の子。
当の本人は「あらー、残念。」なんて言って
あっけらかんとしてる。
あまりにも一瞬の出来事に、クラス全員が唖然とする中
妙にスッキリした顔で僕の隣の席に座るこいつは笑った。
「んぁー!スッキリした!やっぱ気持ち伝えんのはいい!
ずっとモジモジして勝手に諦めるより、こういう日だからこそ言うべきことは言わねーとな!」
そしてその視線の向く先は、僕だ。
「…そんな悲しい顔して諦めるより、言いたい事、
みーんな言っちまえよ!とーまの好きになった人は、
人の話もろくに聞かない最低野郎なのか?」
「んな、事…ないけど…、でも僕は――、」
「芦屋〜!メノウ先生が呼んでるー!」
「おーぅ、今行く!」
僕の反論を聞かずして、名を呼ばれたそいつは
返事をする。
気付けばクラスの9割は既に証書を受け取っていて
残るは僕とこいつ…芦屋の2人だけだった。
「…なぁ、とーま。最後にもっかいだけ言わせろ。
お前には、気持ちを伝える口がある。
先生にはお前の気持ちを聞くための耳がある。
言うのが無理なら紙も、シャーペンもあるし、手紙だって書けんだろ。方法はいくらでもある。
でもそれは、タイミングがあってこそだ。
…今日を逃してこの先いつか、伝えたいと思っても
そんな上手く世の中出来てねーからな。」
ろくに僕の返事も聞かず、言いたいことだけ言うと、
そいつはさっさとメノウのいる空き教室に行ってしまった。
何なんだよ。お前、今振られたところじゃん。
もっと感傷に浸ってろよ。
僕の気持ち、全部わかったような事言って…っ
「くそっ。」
僕はガサガサと自分のスクールバッグを漁る。
ルーズリーフとボールペンを取り出し、
震える手に力を込めて文字を連ねた。
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