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「とーま、お待たせ。次お前の番な。」
例の如く涙を流しながら教室へ戻ってきた親友が
そっと僕の背を押す。
僕の机の上に置かれているペンを見て満足家に鼻を鳴らすそいつに、ベッと舌を突き出してから教室を出た。
お前にも、あとでちゃんと
”ありがとう”
っていわなきゃな。
「メノウ先生、お待たせ。」
「おー、安芸。…お前で最後だな。ほら、前座りな。」
1つの机を挟んで、向き合うようにメノウと座る。
僕より10年以上長く生きてるメノウに、
学生用の勉強机はやっぱり似合わない。
この机が似合う頃、君は僕の為に
友達と遊ぶ事を我慢してまっすぐ家に帰ってきてくれた。
僕と一緒に過ごしたほんの1ヶ月でも、そんな風に
我慢をさせていた事を謝りたい。
でもそれが叶わないのなら、もう二度と困らせないよう
君の前では1番の優等生でいたかったんだ。
すぅ…と、メノウが小さく息を吸う。
今から、メノウが僕だけに向けた最後の言葉を
聞かせてくれる。
僕はすべての意識を耳に向け、息の音、指先の動く音も
1つ残らず脳に焼き付けるように目を閉じた。
「安芸、1年の時からずっと勉強も行事も率先してやって
みんなを引っ張ってきてくれてありがとう。
授業で分かんねー所とかたくさん聞きに来てくれて、
学力もどんどん伸びて、皆のいい手本になってくれた。」
ぽつり、ぽつりと話し出すメノウの声は落ち着いていて、
こういうふとした時に大人の格好良さを見せつけられるから、また胸がキュンと締め付けられて苦しい。
卒業証書が束になって置かれていたであろう場所に
残るは僕の一枚だけで、
それをメノウの長い人差し指と、親指が掴み上げた時、
この二人の時間をまだ終わらせたくなくて、つい
口に出してしまった。
「メノウ先生だったからだよ。…僕、メノウ先生と
離れたくなくて特進入れるように頑張ったんだもん。」
僕のこの言葉を聞いて、メノウはどう思った?
どう感じた?僕は、ずっとずっと、今だって
ゆか先生より前から、メノウの事が―――…っ
「っはは。そっか。そう言ってもらえんのは
教師としてすげー嬉しいわ。ありがとう。
……3月1日。安芸斗真、卒業おめでとう。」
少しだけ、目元が揺れた気がしたけれど
メノウは落ち着き払ったその口調のまま、僕に
『ソツギョウオメデトウ』
という、終わりの呪文を告げた。
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