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あれから、もう何時間待ったことだろう。
まだ咲かない桜の木の下で、たった一人彼を待った。
僕が卒業式を終えて暇になっても、メノウには仕事がある。
朝だってゆか先生と一緒に来ていたんだから、
僕がこんな所で待っていたって
メノウはゆか先生と家に帰るだろう。
2人の家に。
あぁ、だんだん寒くなってきた。
いくら暦の上では春だと言っても、つい先日まで寒波がどうのとか、大雪による被害がどうのとかニュースでやっていたくらいなんだから、日が沈めばかなり冷え込む。
ポケットからスマホを取り出すと、
時刻は午後6時半を指していた。
どうりで暗い訳だ。
画面をしばらく眺めたのち、また膝に顔をうずめる。
僕のスマホのロック画面は、いつだったか
授業中に盗撮したメノウが黒板に向かっている姿。
シワも、シミもどこにも見当たらない、
いつでも綺麗なメノウの白いシャツは、
未来の奥さんに愛されている何よりもの証拠だ。
この画像くらいは、今日が終わっても
思い出として取っておくことを許してもらえるだろうか。
メノウに、勉強を教わってた証。
学校がいやだいやだと言って駄々をこねていたメノウが、立派な大人になって、僕を生徒として迎え入れてくれた証。
そして、僕がメノウという一人の人を好きになったという、思い出の欠片。
仕事を終えたらしいサラリーマンの車が、
徐々に列をなしていく。
僕がここに来た時にはまばらだった車の通りはこの時間になるとずいぶん増えて、渋滞を作り始めていた。
この中に、メノウの車はあるのだろうか。
いや、そんな訳無いか。
他の生徒たちからも、沢山の手紙やプレゼントを貰っていたのは知っているし、その全てに目を通すとしても、家に帰ってからに違いない。
もしかしたら、読むのが今日ではないかもしれないし、明日かもしれない、あさってかもしれない。
1か月後かもしれないし、そもそも僕の手紙何て読んでくれるつもりもないかもしれない。
もし、メノウがあの手紙を読んでくれても、
ここに来るとは限らないしね。
あーあ、結局言えなかったな。
もう、涙も出てこない。だってわかってたから。
すぐには読まないとわかって
来るわけないとわかって
全てを自分の中で諦めるためにした事なんだから。
あいつに気持ちを伝えろと後押しされたときは、
確かに燃えた。
どうせ今日で最後なら、何とでもなれとやる気に満ちた。
でも、そんなテンションを保ったままこの数時間、ぽつんと1本だけ立つ木の下で待ち続けられるわけもなく。
すっかり諦めモードに入った僕は
ようやく重たい腰を持ち上げた。
今の僕は、メノウの力を借りなくても
一人で立ち上がれてしまう。
脚もどこも怪我をしていないから。
ただ1つだけ、息の仕方も忘れるほど締め付けられた胸は痛いけど。
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