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「おい、お前が結城益男(ゆうきますお)か」
フルネームで呼ぶのやめろ。
マジでやめろ。
俺の悩みその1。
名前が壊滅的にダサい。
俺の容姿は自分で言うのも何だがそこらのアイドルなんか目じゃ無いほど整っている。
祖母がイギリス人のクウォーターで、髪は天然のブロンド、目なんか宝石のような青色だ。
それこそ子供の頃はお人形扱い、高校生の今じゃ王子扱いで、自分が相当なイケメンだということはしっかり自覚している。
が、なんで名前がマスオなんだよ。
某大家族国民アニメじゃねーんだよ。
ネーミングセンスゼロな両親を恨みつつ、不躾な態度で人の名前を呼んできた奴へと視線を向ける。
俺にヘコヘコ気を使う奴ばかりの中、そんな言葉遣いをしてくる奴は珍しい。
日に焼けた肌。短い黒髪。
いかにも汗臭そうな野球部の格好をした奴が、教室の入り口に立っていた。
その野球部男の手には、俺がさっき窓からぶん投げたラブレターの束が握られている。
まさかコイツ拾ってきたのかよ。
「おい、お前が結城益男かと聞いている」
「あー、はいはい。そうだけど」
頼むから二度もその名前を呼ばないでくれ。
今時洒落た名前やキラキラネームが流行る時代で俺だけ戦時中みたいな気分になんだろーが。
俺の言葉で野球部男が教室に入り込んでくる。
目の前まで来ると、予想以上にデカイ身長に驚いた。
俺も平均くらいはあるが、自然と顔が上向く。
気難しそうな顔。
端正な顔立ちをしているが、切れ長の目がパッと見めっちゃ怖そう。
え、ひょっとしてなんか怒ってる?
「全てお前宛の手紙だ。落ちていたが封は開いていないので安心しろ」
「…はあ、そりゃご丁寧にドーモ」
が、見た目に反してどうやら律儀らしい。
ぐしゃっと潰して投げたはずの手紙は綺麗に伸ばして束ねられている。
完全に有難迷惑極まりないが、仕方なく受け取ろうとしてふと俺はコイツの顔に見覚えがあることに気づいた。
「ああ、わざわざ部活中に悪かったな。有坂」
手紙を受け取りながら、目の前の男の名前を呼ぶ。
そうだ。
コイツ同じクラスの有坂じゃん。
有坂桐吾(ありさかとうご)。
話したことは一度もないが、クラスメイトなら顔と名前くらいは覚えてる。
野球部の格好をしてるってことは、きっと俺とは無縁の青春スポーツ時代を過ごしているんだろう。
が、当の有坂は元々怖そうな目をさらに細めて俺を見る。
まるでなんでコイツ俺の事知ってるんだ、って顔だ。
「…ひょっとしてお前俺の事知らない?同じクラスだろ」
「そうか。すまなかった」
マジかよ。
自惚れでもなく俺ちまたでもかなりの有名人なんだけど。
今時俺のことを知らないやつがいたとか驚きだ。
しかもクラスメイトとかどんだけ周りに興味ねーんだよ。
「…お前」
「え?――いっ」
呆気にとられてたら、不意にグイと手首を掴まれた。
骨がギシリと鳴るような馬鹿力で掴まれて、思わず痛みに顔を顰める。
手渡されたばかりの手紙の束が、バラバラと床に散らばった。
俺の顔に影が掛かり、予想以上に近い位置でまっすぐに見下ろされる視線に驚く。
鼻先数センチの距離で気難しそうな顔が食い入るように俺の顔を見つめていた。
目の前の薄い唇がそっと開く。
「瞳が青い。綺麗な目をしているな」
知ってるっつーの。
俺の目どころか顔が綺麗なことなんか嫌という程知ってるが、無遠慮に目を覗き込まれて戸惑う。
視線を合わせても真っ赤な顔で逸らす奴が多い中、こんなに近い距離でまじまじと顔を覗き込まれたのはいつぶりだろう。
「…おい、痛いんだけど」
黙ってたら一生見つめられてそうな視線が、いい加減気まずい。
またしても俺ファンを一人増やしてしまったのかとめんどくせー展開を予想したが、声を掛けると有坂はあっという間に興味を無くしたのか部活へ戻って行った。
あまりにあっさりとしたその態度に思わず瞬きをする。
今しがたまで痛いほど掴まれていた手首は、まだジンと熱を持っている。
これは。
これはもしかしたら、来たかもしれない。
俺の悩みその2を解決してくれる存在が、ついに現れたのかもしれない。
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