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予鈴が鳴る。
ようやく待ち望んだ昼休みになり、予定通り有坂に声を掛けるため席を立つ。
「っていねーんだが」
今授業終わったばっかなのにどこいった。
カバンもないし、廊下側の一番前の席だからソッコーで教室出たんだろうがどんな速さだ。
もしや購買の限定揚げクリームパン買う民か。
「なあ、有坂どこ行った?」
「ふぇ!?え…えっと…いつもすぐいなくなっちゃうから…」
声を掛けただけで過剰に反応する有坂の隣の席の女子は、真っ赤な顔で心ここにあらずといった様子で俺を見る。
うんざりする視線だが、今は有坂の情報が欲しい。
「いつも?誰かと約束してんのか?」
「あ…えっと用事があるなら私も一緒に探そうか?も、もし伝言があるなら代わりに伝えておくけど…」
「別にいい」
そっけなく返してから教室を出る。
購買に行ってみたが見つからず、食堂も覗いたがいない。
用がある時は視線をよこせば向こうから寄ってくることがほとんどなのに、この俺が人探しをすることになろうとは。
行く先々できゃいきゃい騒がれながら探して、ようやく俺は一つの場所にたどり着いた。
「うわ、汗臭そう」
野球部の部室を前にして、思わず一言。
学校の校舎から少し離れたところにある部室棟は運動部専用で、帰宅部の俺には無縁の場所だ。
汗水たらして部活に励むとか青春スポーツ脳がない俺には、一生立ち入ることのない場所だと思っていた。
だが人探しついでに聞いた話によれば、部活に真面目らしい有坂クンは毎日昼休みも素振りしたり筋トレしたりと練習に励んでいるらしい。
果たしてそんな上昇志向な奴と友達になれるのかは謎だが、少なくとも人の顔を見てぽーっと呆けてる連中よりはマシだ。
とはいえ本人目の前にしていきなり「友達になってください」なんてのはおかしいし、そもそも部外者が部室に直撃ってどうなんだ。
なんとなく見つからないから意地になって探してここまできたが、さすがに目の前の扉を叩くには理由が不審すぎる。
なら出直そうと思ったところで、ガチャッと部室の扉が開いた。
タイミング悪すぎだろ。
開いた扉の先で、機嫌悪そうな表情の有坂と視線がかち合う。
いや、別に機嫌が悪いわけじゃなくコイツは元々こういう顔なのか。
引き結んだ唇と、射殺しそうな視線が俺を見下ろす。
先に口を開いたのは有坂の方だった。
「目が青い。結城益男か」
だからフルネームはやめろ。
そしてコイツは人を目の色で判断してんのか。
「俺に何か用か」
「うん、まあ用っつーか…」
さて何を話そうかと考えながら、ふと部室の中に目を向ける。
どうやら有坂以外は誰もいないらしく、ということはひょっとしてコイツもぼっち飯か。
口調からして寡黙そうな感じだし、案外コイツも俺と同じで友達いないのかもしれない。
なんて気付けば勝手に親近感が湧いてくる。
「お前いつもこんなところで一人で飯食ってんの?一緒に昼飯食わねーかなって誘いに来たんだけど」
どう考えてもいつも誰もいない屋上で一人寂しくぼっち飯なのは俺の方だが、学校で人気者の爽やかイケメン王子がまさかぼっち飯とか誰も思わないだろう。
いや、別に誘ってくる女子も男子もいるにはいるが、一緒に食ったところでみんな俺に気を使うばかりでつまらない。
チラチラ盗み見されながらの昼飯とか食いづらすぎんだろ。
「悪いがのんびり昼食を取っている暇はない。大会が近いんだ」
そしてあっさり断られた。
俺に誘われて断る奴とかこの世にいたんだ。
どうやら有坂はぼっちでも気にしないタイプらしい。
「大会って…あー、そういや野球部は夏にデカイ試合があるんだっけ」
詳しくは知らないが甲子園とか夏やってるよな。
確かうちの学校はバスケ部は強いって話をよく聞くが、野球部の話は全く聞かない。
それでもこれだけ上昇志向な奴がいるなら、さぞかし野球部もレベルが高いんだろう。
「そっか。野球部って強かったんだな」
「いや、ここ数年は一回戦負けが続いている」
よえーなおい。
弱小野球部じゃねーか。
とはいえ友人になりたい相手にまさかそんなことを言うはずもない。
「あー…まあ頑張れよ。ちなみに何回戦くらいを目指してるんだ?」
「当然、全国制覇だ」
「……」
まさか目標は甲子園だ、とか言うならまだしも全国制覇とか。
ここは友人(仮)として目標高すぎだろ、とかツッコミいれてやるべきなんだろうか。
冷静そうな奴だと思ってたが、コイツ案外熱血スポーツマンタイプか。
「まだ何かあるのか。走り込みに行きたいんだが」
そんな俺の客観的かつ冷静な考えなんて微塵も思い至らなそうな有坂は、相変わらず笑顔のカケラも無い顔で俺を見る。
ここであっさり「分かった。じゃーな」と終わらせるのは簡単だが、それでも俺は友達が欲しい。
せっかくの高校生活、ずっとぼっちで過ごすのは嫌だ。
「あー、じゃあさ。明日一緒に飯食おうぜ。野球部の話してくれよ」
「だからそんなにのんびりしている時間は――」
「別にいいよ。さらっと飯食って練習行ってくれて。なんなら俺暇つぶしに見てよーかな」
友達が欲しい身としてはそれくらいなんてことはない。
それよりクラスメイトで話せる奴が出来たことのほうが嬉しい。
有坂は元々怖そうな目をさらに細めて俺を見たが、ニッと笑顔を作ってその顔を見上げた。
「な?決定。じゃー走り込み頑張れよ」
半ば強制的に約束を取り付けて、有坂に背を向ける。
俺の提案が通らなかったことなんて今までにない。
そんなわけで有坂が俺をどう思っているかは知らないが、俺はアイツを友達にすると決めた。
ちょっと変わってる気もするが、それでも俺に対して遠慮のない物言いができる奴なんて今までにいなかった。
そう。
俺の友達になれるのは、絶対にアイツしかいない。
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