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「結城のことを教えてくれないか」
「え、俺?」
「そうだ。俺はお前のことをまだよく知らない」
部室に足を踏み入れて、二人で弁当を机の上に広げる。
さて今日は何から話そうかと浮かれていた矢先、まさか有坂の方から会話を振ってくるとは。
ひょっとしなくても初めてだ。
「えっと…そうだな」
唐突な質問に少し考える。
俺のことといえば頭が良くて顔が良くて、大抵のことは何でも出来る。
初めてやったものでもわりと器用にこなせて、ストーカーホイホイなレベルで男女問わずモテる。
けどそれをまんま友人に言うのはちょっと違うよな。
「その目の色はハーフなのか?」
何を言おうか迷っていたら、有坂からまたしても質問が飛んできた。
今日はもう赤飯炊いてもいいんじゃないか。
「…ああいや、これはばーちゃんがイギリス人で――」
自分のことを話すのはなんだかむず痒かった。
けど話し始めたら自然と言葉は次々と出てきて、好きな食い物やら得意な教科、兄貴が二人いることや犬の名前までどんどん舌が回る。
有坂は質問したくせに安定の淡々とした返事だったが、ちゃんと俺の目を見て話を聞いてくれた。
「俺も有坂のことが知りたい」
そう促すと有坂も俺が話したのと同じような内容を返してきた。
俺みたいにそこから派生したエピソード付きとかじゃなく、相変わらずその返事は淡々としたものだったが、それでも俺は満足だった。
やっと有坂とまともに話が出来たことで完全に調子に乗って話しまくっていたが、ふと俺は言わなければいけなかったことを思い出す。
「あ…っと、そうだ。俺別にゲイなわけじゃないからな」
そうそう、これだ。
やっと言えた。
有坂は俺の言葉に僅かに目を細める。
「違うのか」
「違うっ。断じて違う。そこ誤解しないように」
「じゃあなぜ俺なんだ」
なぜってそんなの決まってる。
俺の友だちになれるのは、有坂しかいないと思ったからだ。
「そんなのお前は特別だからに決まってんだろ」
「…特別?」
有坂が怪訝な顔をする。
そう。特別だ。
他の奴らとは違う。
見た目と違ってまさかのお人好しだったが、コイツは俺とも臆せず話してくれる。
だから友達になれると思った。
「初めて見た時から、有坂しかいないって思ったんだ」
言葉が勝手に口から滑り落ちる。
ほんの少し開いた部室の窓から、ふわりとした優しい風が髪を撫でていく。
前にも一度言ったが、それでも有坂が分かっていないならもう一度。
この際ちゃんと、今の自分の気持ちを伝えておこうと思った。
「俺にとって有坂は他とは違うんだ。だから大切にしたいし、お前にもそう思って貰えるようになりたい」
じっと有坂の目を見つめて伝える。
そしていつの日か、念願の、憧れの、待望の『親友』と呼べるような間柄になりたい。
なんか若干告白みたいになったような気はするが、まあゲイじゃないって伝えられたし大丈夫だろ。
有坂は俺の言葉にどこかハッとしたような顔をしていたが、少しして口を開いた。
「…そうか。結城の気持ちは分かった」
どこか難しい顔付きに変わった気がしたが、まあいつもと同じといえばいつもと同じだ。
しばらくして再び有坂が口を開く。
「結城がそこまで言うのなら、俺ももう少しその気持ちに応えられるよう努力しよう」
「えっ、マジで」
それって友達としてもう少し時間を作ってくれるってことだよな。
さすが有坂、神対応じゃねーか。
とはいえあっという間に飯は食い終わって、有坂はいつものようにジャージに着替える。
でも今日は走り込みじゃなく素振りに切り替えたらしく、俺はのんびりとすぐ側で有坂が練習する様子を見守りながら昼休みを過ごすことにした。
友人と過ごす昼休みはぼっちな屋上とは違って、なんだか幸せで心が暖かかった。
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