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----side有坂『結城益男』
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ひらひら。
ひらひらひらと舞い落ちる。
――キンと小気味いい音を立てて飛んだ白球を追いかけて、グラウンドから校舎前へと走る。
まだ夏前の時期だが、最近少しずつ気温が上がり暑くなってきた。
それでも始めたばかりの野球は新鮮で、ようやくグローブも手に馴染んできたところだ。
「有坂ー、悪い。つい気持ちよくなってホームランしちった」
遠くから飄々とした顧問兼監督の声がする。
今は内野ノックの練習でそんなに飛ばす必要はないはずだが。
とはいえこの顧問兼監督はまだ若い新米の数学教師で、俺と同様に野球は未経験者らしいから仕方ない。
それでも持ち前の運動神経は良く、生徒と共にいつも前向きな姿勢で取り組んでくれている。
人が足りないと頼み込まれ入った野球部だが、どんなものかと思ってみれば顧問を中心に皆やる気に満ち溢れていて志も高い。
自分自身も日々練習を重ねて、少しずつ上達が見られてきたところだ。
――ひらひら。
ひらひらひらと。
数学教師――もとい監督が飛ばしすぎた白球を取りに校舎前へ行くと、たくさんの紙が舞っていた。
何かと思い近くへ行けば、手紙だった。
見てみれば全て差出人は違えど宛先は同じらしい。
どれも一様に『結城益男』という男宛だ。
「悪い悪い。ボールあった?」
「はい」
手紙を拾い終えたところで、監督が顔を出した。
どうやら戻ってくるのが遅いから探しに来たらしい。
備品は大切に扱うようにとの教えで、例え一球だろうとそのままにしたりはしない。
見つからなければ全員で探しに行くのが部のルールだ。
「七海監督、結城益男って知っていますか?」
「え、マスオ?はいはい、もちろん日曜の夕方やってる国民アニメなら俺結構モノマネ得意で――」
「違います」
真顔で監督に返しながら、手紙を見せる。
人を探すには教師を頼ったほうが早い。
監督は手紙を見つめて、数度瞬きをした。
「あー、知ってる知ってる。金髪兄弟の末っ子な」
「…は?」
「男だけどすげー美人さんだから見たらすぐに分かるぞ」
そう言って監督はニッと人の良さそうな笑顔を浮かべると、俺からひょいとボールだけ受け取って戻っていった。
部活の途中だが手紙を渡してくることを許可してくれているらしい。
確かにこういうものはプライバシーに関わる物だから、早々に処理したほうがいい。
情報がもう少し欲しかったのだが、ここに落ちているということはこの辺りの階にある教室だろう。
そう思い放課後の校舎に足を踏み入れたが、既に残っている生徒は数少ない。
この手紙の『結城益男』も帰宅してしまっている可能性が高い。
――だが、結城益男はそこにいた。
夕暮れの教室に佇むその姿は、どことなく淋しげな表情を湛えているように見えた。
監督に聞いていた髪の色は夕陽を含み、キラキラと黄金色に輝いている。
声をかけて本人と分かると、その男の元へと歩み寄る。
言葉を交わし手紙を差し出してから、ハッと息を呑んだ。
青い瞳。
顔立ちは日本人だが、その深い色に驚く。
吸い込まれそうなその色に、不思議ともっと近くでそれを見てみたいと思った。
「…おい、痛いんだけど」
気付けば俺は男の手首を掴んで、食い入るようにそれを見つめていた。
何かに惹きつけられるとはこういうことをいうのか。
宝石になど全く興味を持ったことはないが、青く煌めくそれに無意識に心惹かれていた。
澄んだ色のその瞳が、とても綺麗だと思った。
そうして俺は『結城益男』という男と出会った。
「有坂、一緒に飯食おう」
「有坂と二人がいい」
「有坂と行くことに意味があるんだ」
「お前しかいない」
「大切にしたいし、お前にもそう思ってもらいたい」
「特別なんだ」
「有坂、有坂」
俺の名前を呼んでは、待っていろと促してもついてくる。
一緒にいれば嬉しそうにニコニコしているが、離れようとすると不安そうな表情を見せて人を掴む。
告白され友達からとは伝えたが、正直俺は男を恋愛対象として見たことは無い。
それでも真っ直ぐに俺に告白する青い瞳はとても綺麗で、やはり目を奪われた。
結城も自分は元々同性愛者ではないと言っていたが、俺と出会ったことで変わってしまったのならそれは俺にも責任があるだろう。
台風のような奴だが、あれほどまでに俺を追いかけてくる奴を無下にすることは出来ない。
さすがにまだ同じ気持ちになることは出来ないが、それでもこの『結城益男』という男と誠実に付き合っていこうと思う。
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