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「――で、有坂。どういうことだよこれは」
目の前の光景にじとっと目を細める。
翌日の放課後。
意気揚々と有坂と一緒に訪れたのは学生寮で、どうやらコイツは寮生だったらしい。
別にそこまでは何の問題もないし、むしろ友人が一人暮らしとか気兼ねなく家に遊びに行けて喜ばしい。
問題はそこじゃない。
「ちょ…っ、有坂マジかよ。まさか王子連れてくるとか…」
「お、王子に教えて貰えるんですか…っ!?」
「ゆ…結城くんだ…はぁっ」
若干やべー声の奴が混ざっていた気がしなくもないが、連れてこられたのは有坂の部屋ではなく学生寮の食堂だった。
そこに見るからに暑苦しそうな奴らがワイワイと集まっている。
「勉強には余裕があると言っていただろう。俺一人ではチームメイトを教えるのに手が回らない。結城が手伝ってくれて助かった」
「いや待て。そんなの聞いてねーぞ」
「言ってなかったか」
言ってない。
絶対に言ってない。
てっきり俺は有坂に勉強を教えるんだと思ってたのに、なんでこの俺が知らない奴の面倒を見なきゃいけねーんだ。
チームメイトってことは野球部の仲間なんだろうが、俺を見て鼻息荒くしてる奴らとなんか関わりたくない。
予想外の展開に立ち尽くしていると、有坂に顔を覗き込まれた。
「…なんだ。急に不機嫌になったな。何か都合が悪かったか」
どこか怪訝そうに見つめられたが、コイツも少しは俺と話したいとか思わないんだろうか。
昨日も眠れないくらい楽しみで浮かれてたのに、なんだか俺ばかり気持ちが空回りしているみたいだ。
「…別に。お前が助かるなら協力する」
フイと視線を逸らして食堂に足を踏み入れる。
本当は嫌だが、それでも友人の頼みなら仕方ない。
適当な席に座ると、至れり尽くせりとばかりに勝手に飲み物やらお菓子が俺の前に出てくる。
ここは有坂の家のはずだが、なんで野球部の奴らが勝手知ったように動いてるんだ。
チラチラソワソワとした視線は感じるが、有坂と俺とで教科を分けて勉強会がスタートする。
考えてみればテスト前だからしばらく部活は休みだ。
有坂だって人の面倒を見るくらいの余裕があるなら、テスト休みくらい俺と遊んでくれたってよくないか。
俺の気持ちに答えられるよう努力するとか言ってただろーが。
めちゃくちゃモヤモヤするが、追試になったら夏大出れないとか言っていたしただでさえ人がいない野球部にはマジで死活問題なんだろう。
それなら少しは有坂のために頑張ってやるかと、なんとか自分を納得させて教え始める。
「――で、ここの文法がこうだとこっちはこうなって…聞いてる?」
「へ…っ!?あ、ご、ごめん。なんか結城くんに教えて貰えると思うと緊張しちゃって」
「うわー…睫毛長い。髪サラサラ」
「……」
ぽーっと夢見心地みたいな顔で見つめられたが、これ俺いない方が勉強捗るんじゃねーか。
せっかく少しは協力してやろうと思っても、相手がこの調子じゃどうしようもない。
ちらっと有坂の方を見てみると、周りと話しながらしっかり勉強をしていた。
いつもと変わらぬ不機嫌そうな顔だが、他の奴と話してるとめちゃくちゃ楽しそうに見えるのはなんでだ。
悶々としながら勉強を教えていたが、それでも時間が経てば少し休憩しようという流れになる。
休憩になればきっと俺に話しかけに来てくれると思ってたのに、周りはやたら話しかけてくるが有坂は俺に見向きもしない。
アイツ俺のこと忘れてんじゃねーだろうな。
「そーいや俺最近彼女出来たんだよな」
「は!?マジかよふざけんなっ」
そうこうしているうちに浮かれ話を切り出した一人のせいで、一気に場の雰囲気が賑やかになる。
そうなれば完全に雑談ムードで、あっという間に勉強どころじゃなくなっていく。
もう帰っていいかこれ。
「それで彼女がダブルデートしたいから友達に男紹介してくれって言っててさー、真面目な奴がタイプらしくて…」
口々に「俺のことか」と手を上げているアホ共を横目で見ながら小さくため息を吐く。
俺なんでこんな所にいるんだろう。
有坂の家で勉強と聞いたからすげー楽しみにしてたのに、実際はうんざりするような視線を向けられながら過剰に気遣われて、肝心の有坂は俺のことなんかそっちのけだ。
どうでもいい恋愛トークで勉強は中断になってるし、さすがにここまできたらもう付き合う義理はないよな。
なら帰ろうと決めて、ガタッと席を立ち上がる。
「――で、有坂って誰か付き合ってる奴いるんだっけ?良かったら紹介受けね?」
唐突に飛んだ質問にピクリと俺の耳が反応した。
ちょっと待て。
それは気になるぞ。
有坂と恋愛トークなんてしたことは一度もないが、あれだけ部活優先なところを見ていると彼女がいそうな気配はない。
が、交友関係には女友達も多そうだったし一体どうなんだ。
そう思っていたら、不意に有坂と目が合った。
今までちっとも俺に見向きもしなかったのに、なんでこのタイミングで。
一瞬じっと見つめられたが、すぐに何でもないように視線は逸らされた。
「いる。すまないが俺は協力できない」
「は、お前彼女いたの!?そうかー。有坂しかいないと思ったんだけどな」
「すまない」
淡々とした有坂の様子に話はすぐに流れていったが、その返答に衝撃を受けたのは俺の方だった。
マジかよ。
有坂彼女いたのか。
一体どこのどいつだ。
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