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衝撃の事実に少し唖然としてしまったが、それでも高二ともなれば彼女がいたっておかしくない。
俺ほどじゃないが有坂も顔立ちは整ってるし、それに何よりお人好しだ。
パッと見怖くても内面の優しさに気付いてギャップ萌えする女子とかフツーにいそうだ。
男としてなんかちょっと置いていかれた感はあるが、まあ友人に彼女がいるのは悪いことじゃない。
そのうち有坂と女の話も出来るような関係になれたらそれはそれで楽しそうだ。
「……」
なんて楽観的に考えてみたが、いやちょっと待て。
女がいるとか、それってまずくないか。
ただでさえ部活でクソ忙しい奴なのに、女なんかいたらそれこそ俺に構ってる時間なんてないだろ。
ふざけんな、それは困る。
「結城くん?ど、どうかした?」
二重の衝撃事実に気付いてショックを受けていたが、心配そうに声を掛けられてハッとする。
そういえば席を立ったままだった。
ちらりと窓の外を見ると既にぼんやりとしたオレンジ色が掛かり始めている。
勉強にはそこそこ付き合ってやったし、とりあえず今日は帰ろう。
ここにいても有坂と一緒にいられないなら意味がないし、チラチラ俺を気にしてる奴がいるんじゃ却って邪魔になるだけだ。
近場の奴にだけ軽く断って、鞄を持ってサッと食堂から出る。
賑やかに談笑しているところにわざわざ帰ると言って場をシラケさせても悪い。
そう気遣って学生寮の玄関先で靴に履き替えていたが、不意に後ろから声が飛んできた。
「結城、帰るのか」
気付かないと思っていたのに、有坂が追いかけてきた。
少し驚いたが、まあ律儀な性格だし一緒に来たやつが帰ろうとしたら気にもなるか。
「おー、あんまり暗くならないうちに帰るわ。じゃーな」
さくっとそう言ったが、別に門限があるわけじゃない。
だがあまり暗くなってから帰宅するのは、ストーカーが怖い。
年中知らない奴に追いかけ回されてる身としては、必然的にやばい道や遅い時間帯は避けるようにしている。
俺が部活に入らないのもこれが一番の理由だ。
「そうか、分かった。なら少し待っていろ」
有坂は無表情でそう言うと、一度食堂へと戻っていく。
何か忘れ物でもしたかと待っていれば、すぐにまた顔を出した。
それから靴に履き替えると、俺と一緒に外へ出てくる。
「なに。買い出しか?」
「違う。結城を送ってくると言ってきた」
「は?」
唐突な有坂の言葉に驚く。
別に方向音痴でもなきゃ女でもないし、わざわざ送って貰わなくても一人で帰れるけど。
空もまだ軽く夕闇が掛かり始めた程度だし、それより有坂までいなくなったら勉強教える奴がいなくて困るんじゃないか。
「そんな気にしなくていいぞ。道分かるし一人で帰れる」
「いや、送る」
「…あ、そー?」
いつになくハッキリとした口調で言われて、それならと押し黙る。
どうせ玄関先くらいまでだろうと思っていたが、本気で一緒に駅までの道を歩きだした。
さっきまで一緒にいたくても全く見向きもしなかったくせに、一体どんな風の吹き回しだ。
二人並んで夕暮れの道を歩く。
伸び始めた二人分の影と、夏前で少しずつ騒がしくなってきた虫の声が人気のない街路地に響いている。
いつもだったらここぞとばかりに話したいことがたくさん出てくるはずだが、なんとなく言葉が出てこなかった。
有坂も別に俺に話があったわけじゃないらしく、コイツが気を使って話題を振ってくる奴でもないことは分かっている。
当然だがどっちも話さなければ無言だ。
それでもさっきまでとは違って、じわりと胸の中は暖かい。
「…今度は有坂と二人がいい」
歩きながらぽつりとそう言うと、伸びた影が小さく頷いた。
「分かった」
そう言って落ちてきた手がポンと俺の髪に触れる。
まるであやされるように撫でられて、さっきまで釈然としなかった気持ちが一気に緩んでいく。
もしかしてコイツは気付いてるんだろうか。
そう、気遣ったふりして食堂を出ては来たが、本当の所俺は結構拗ねていた。
楽しみにしていたことが的外れだったことや、有坂に彼女がいたという衝撃事実。
またぼっち生活に戻るのかもしれないと思ったら、なんだか不安になってしまった。
有坂が送りに来てくれたことでその不安は解消したが、一度言葉を交わしたら張り詰めていた心がぶわっと溶け出していく。
言いたかったことが、たくさん頭に浮かんでくる。
「…ほ、本当は俺はお前と二人で勉強がしたかったんだよ」
「そうか。気付かなくてすまなかった」
「他の奴に教えるとか聞いてなかったし、お前の家に行けるって聞いてたからめちゃくちゃ楽しみにしてたのに」
「俺の部屋にそこまで楽しいものはないが」
「楽しいものがあるとかないとかそういうことじゃなくて、単純に見てみたいっつーかお前のことが知りたいんだよっ」
「…そうか」
「つ、次は絶対お前の部屋行くからな。ちゃんとエロ本とか隠しとけよっ」
「分かった」
いやあるのかよ。
相変わらず抑揚のない有坂の返事だったが、俺の様子を見て有坂がそっと目を細める。
「機嫌は直ったか」
鈍そうな奴だと思ったのに、もしかしてコイツは察して来てくれたんだろうか。
本当のところは分からないが、言いたいことを言い終えたおかげでなんかスッキリした。
「おー、直った」
ふふ、と笑ったら、有坂もどこか困ったように表情を緩めた。
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