アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13
-
「さっきの春屋って奴、有坂の親友なのか?」
部室で飯を食いながら有坂に聞く。
彼女の出現だけでも鬱陶しいと思ってたのに、まさか親友まで現れるとか。
いよいよ俺の立ち位置が怪しくなってきた。
「同じ寮生なんだ。親友と呼ばれるほど親しくした覚えはないが、高校に入ってからの付き合いだ」
「へー」
てことはもう一年以上の付き合いか。
寮なら寝食共にしてるわけだし、それは仲良くもなるか。
悔しいことに付き合いの長さでは絶対に勝てない。
「春屋の言葉を真に受けるなよ。アイツはあまりいい噂を聞かない」
「え、そうなのか?」
「根は悪い奴じゃないと思うが、身持ちが軽いのも言われる原因だろう。結城の交友関係に口を挟むつもりはないが、一応伝えておく」
もしかして有坂はそんなに春屋のことをよく思ってないのか。
俺の交友関係なんて有坂しかいないから全然口出ししてくれていいが、有坂がそんなことを言うのは珍しい。
素直に心に止めておくことにする。
今日もあっさりと先に飯を食い終わった有坂が、部室でジャージに着替える様子を眺める。
テスト前だろうが昼休みの練習は欠かさないらしい。
楽しい時間は本当にあっというまで、今日も全然話す時間が足りなかった。
テスト休みだって放課後は野球部の奴らに勉強教えてるし、結局コイツは忙しい。
残りの弁当を口に入れながら、ぼんやりと物足りなさを感じてしまう。
「――わっ」
突然伸びてきた手がくしゃりと俺の髪を撫でた。
何事かと思えば、着替え終わったらしい有坂が俺を見下ろしていた。
「また時間を作る。そんな顔をするな」
どうやら俺の不満が顔に出ていたらしい。
そういえば最近有坂によく頭を撫でられる気がする。
確か前に家族の話をした時に、有坂は兄弟の一番上だって言っていた。
俺も兄貴二人に宥められる時はよく頭を撫でられたから、そういう癖でもついているんだろう。
「分かった。すげー楽しみにしてる」
「ああ」
「今度は絶対二人な。野球部のメンバーとか連れてくんじゃねーぞ」
「大丈夫だ」
俺の念押しに、フ、と有坂が表情を緩める。
おお、コイツのツボは相変わらず分からんが、また笑いが取れた。
そうなればこっちも自然と笑顔になる。
優しく髪を撫でる手が暖かい。
そう思っていたら、するりと髪に触れていた手が滑り落ちる。
それは髪から耳に触れ、親指がそっと俺の頬をなぞった。
「…有坂?」
さすがにそれは兄貴にもされたことはない。
声を掛けると、有坂はハッとしたように手を引いた。
「すまない。…そうだ、結城に聞こうと思っていたことがある」
「え、なに」
唐突にすり替わった話題に少し面食らったが、有坂からの質問は貴重だ。
身長体重足のサイズまでなんでも聞いてくれ。
今しがたのことなんてすっかりと忘れて、俺を真っ直ぐに見下ろす黒い瞳を見つめ返した。
昼食後、俺はめちゃくちゃ上機嫌だった。
理由はもちろん有坂だ。
有坂に聞かれたのは俺の連絡先で、電話番号とメッセのIDを交換した。
俺のスマホ史上初の友人だ。
ずっと家族しかいなかったのに、ついに友人の名前が登録された。
嬉しすぎて画面一生見てられるかもしれない。
そんなわけで数学の授業中にスマホをずっとガン見してたら、チョークがすっ飛んできた。
またしても隣の奴にヒットしていたが、もうあの数学教師わざとやってるだろ。
「王子ー」
一日の授業を終えて帰ろうとしたら、教室の窓越しで春屋が手を振っていた。
名前を呼ばれて手を振られることをはよくある。
無視してそのまま帰ろうとしたが、教室を出たところで捕まった。
「もう帰っちゃうの?テスト勉強とかしないんだ」
「しない。必要ねーし」
「わお、さすが王子様は言うことが違うねー」
コイツ煽ってんのか。
とはいえ、俺に普通に話しかけてきた奴は有坂に次いで二人目だ。
「有坂なら野球部の奴とテスト勉強に行ったぞ」
「いや有坂じゃなくて王子に用があるんだよね。勉強しないならこれから遊びに行かない?」
「――えっ」
「王子は何が好き?カラオケとかゲーセンとかフツーに飯食いに行ってもいいし」
おいおいおい。
マジかよ。
それ全部俺が友達と一緒にしたかったことじゃねーか。
有坂といつかしようと思いながらアイツの時間が取れなくてめちゃくちゃヤキモキしてたのに、こんなに簡単に実現していいのか。
いやでもちょっと待て。
「お前良くない噂があるって聞いたんだけど」
「噂?ああ、女の子と遊びまくってるから嫉妬されてるんだよな。そういう目で最初から見られるのは嫌だなー」
春屋は軽い感じでそう言ったが、その気持ちは正直俺にも分かる。
最初から見えたもの、聞いたものだけで判断され、俺の内情にかかわらず周りは距離を取る。
距離を縮めようとしても、いつだって外見が邪魔をしてうまくいかなかった。
「もしかしてなんか俺警戒されてる?純粋に友達増やしたいだけなんだけどな。じゃあ学食で軽く話すのは?そういや今日学食のおばちゃんに限定揚げクリームパン取り置きしておいて貰ったんだっけ」
「え、そんな裏技あんのか」
「お、興味持った?やろうと思えば王子も出来るよ」
「マジで?」
いつ購買に行っても絶対完売してるそれは、学生なら誰でも興味あるだろう。
俺の言葉に春屋はフフンと鼻を鳴らしてみせた。
というかコイツ思ったより話しやすいな。
「ま、少しくらい俺と遊んでよ。もしかしたら有坂も食堂で勉強してるかもしれないし」
「有坂が?じゃあ行く」
有坂がいるなら何も問題はない。
きっぱりとそう言ったら、春屋はどこかキョトンとした顔をした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 275