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「あれ、おねーさん髪型変えた?」
「あらあら実は昨日美容室に行って髪染めてきたの」
「あー、道理で。なんかすげー新鮮。似合ってんね」
「もぉ、春屋くんてホントお上手ねぇ」
なんだこれ。
つーかお姉さんて言ってるがどう見ても腰曲がってるババアなんだが。
白髪染めに新鮮もクソもあるのか。
「…お前いつもこんなことしてんの」
「えー?お年寄りには親切にしないとだめだよ王子」
そう言って食堂のおばちゃんから受け取ったらしい限定揚げクリームパンを俺に渡す。
裏技って何かと思えばただ単にお世辞言いまくって気に入られてるだけじゃねーか。
「これ俺が食っていいのか?」
「どーぞ。俺何回も食ったことあるし」
「…ありがとう」
そう言って受け取る。
何も別にスイーツ大好き男子とかじゃないが、限定物なら興味はある。
もし有坂がいるなら、有坂にも食わせてあげたい。
ちらりと食堂内を見てみたが、有坂の姿は見当たらなかった。
数人の女子グループがこっちを見て賑やかに騒いでいるだけだ。
「あれ、誰か探してる?」
「有坂がいるかなって思ったんだけど」
「ああ、いなかったね。――ふ、王子有坂のこと好きすぎない?」
「えっ」
笑い混じりにそう言われて少し驚く。
単純に仲良しの友達と一緒に過ごしたいと思うのはおかしなことじゃないと思うんだが。
「王子って一人が好き、みたいな印象あったんだけど違ったんだね」
「それこの間も言ってたけどそんな噂あるのか?」
「ほら、屋上でよく一人で飯食ってなかった?誘われないわけないだろうし、単純に俺らみたいな下々の人間と関わるのが面倒なのかなーって」
下々の人間て。
というか俺のぼっち飯バレてたのかよ。
ただ友達がいないだけなのに無駄に美化されている感がハンパない。
「そんなこと思ってない。…ただ、変に気遣われるのが嫌なだけだ」
「ああ、そういうことか。まあその顔じゃ気遣うなって方が無理だと思うけど」
さらっと無理とか言われた。
まあ今さら俺の顔が綺麗なことは周知の事実なんで仕方ない。
それに今は有坂がいるから別にいい。
「それだけイケメンなら女の子とヤリたい放題遊びまくれるのに意外と真面目なんだね」
「――ちょ、おい。さらっと物騒なこと言うな」
「物騒って…え、もしかして王子って童貞?」
おいおい、なんなんだコイツは。
いきなり失礼かましてきた奴に絶句すると、それを肯定ととった春屋にぶふっと吹き出された。
「うわー、マジで?最強にイケメンの無駄遣いしてんね」
ニヤニヤと見つめられる視線が鬱陶しいが、悔しいことに反論はできない。
俺の悩みその4。
童貞どころか女と付き合ったことがない。
むしろ誰かを好きになったことすらない。
「まさかそんな純粋王子とは思わなかったなあ」
「う、うるせー。別にその気になれば彼女くらいすぐ出来る」
「実際その気になればすぐ出来るだろうからそこは否定しないけど」
出会ったばかりでズケズケと心を抉られた気がするが、俺は恋愛より友人関係を優先してきただけだ。
とりあえずここは限定揚げクリームパンでも食べて話を濁すことにする。
半分やろうと思ったがコイツにはやらん。
外はサクサク、中はクリーミーなそれに感動していると、春屋は食堂のテーブルに頬杖をついてじっと俺を見つめた。
「王子に女の子紹介してあげよっか?」
「別にいい。今は有坂と遊んでる方が楽しいし」
「有坂好きだねー。あの堅物くんのどこがいいの?」
「お前だって親友じゃねーの」
そう言ったらそんなこと言ったっけ、みたいな反応された。
適当だったのかよ。
「じゃあ王子は…」
「つーか王子呼びやめろ。気色悪い」
言葉を遮ってきっぱりとそう言うと、春屋は小さく首を傾ける。
呼ぶ方はいいかもしれないが、呼ばれる方の心境としてはかなり微妙だ。
「ああ、本人は気に入ってないんだ。王子って下の名前何ていうんだっけ?」
「……」
黙ってたら春屋はスマホを弄り始める。
何かと思っていたら、いきなりぶふっと笑い始めた。
「ちょっ、王子の名前益男って。名前と顔がぜんっぜん合ってなさすぎだろ」
「おい、お前今何した」
「グループの女友達に聞いてみただけだよ?」
そう言って春屋はニヤニヤしながら目の前でスマホを振ってみせたが、そんなことより俺は衝撃を受けていた。
おいおい、マジかよコイツ。
今当たり前のように人の名前馬鹿にして笑ったよな。
一瞬唖然としたが、カッと胸が熱くなるのを感じた。
「――だよな!?笑えるよな。どう考えてもおかしいよな」
「もっと貴族みたいな名前かと思ってたらまさかの益男とか戦時中すぎんでしょ」
「だよなっ。絶対俺もおかしいと思ってるのに誰も言わねーんだよっ」
「いやこれどう見てもツッコミどころでしょ」
今ので一気に親近感がわいた。
もしかしたらコイツの感性は俺と似ているんじゃないか。
ひょっとしてコイツは、俺の第二の友達になりえるんじゃないか。
「いやー、王子童貞だし名前益男だし小ネタ仕込みすぎっつーね」
「童貞はほっとけ。名前にツッコミ入れてくれる奴に初めて会ったわ」
「ツッコミ役の人材不足しすぎでしょ」
ポンポンと進む会話のやり取りに、自然と表情が緩んでいく。
気付けば俺は春屋――いや、ハルヤンと夢中で会話をしていた。
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