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「はぁ?有坂彼女いるだろ」
ハルヤンの冗談を受け流しながら隣に座る。
グラウンドを見下ろすと相手チームの試合前の守備練習が始まっていた。
さすが強豪校らしく、体付きもガッシリしてて見た目からなんか強そうだ。
「それどこ情報よ」
「本人が言ってたの聞いた」
「ありちゃんが?」
そう言ってハルヤンは何か考えるように視線を持ち上げる。
真面目に考え始めてるが冗談じゃないのかよ。
「お前俺が男ってこと忘れてねーか」
「やだなー。女だと思ってたら飯食いに行った日に抱いてるって」
「うわっ、最低」
チャラすぎんだろ。
どんだけコイツの性生活は乱れてんだ。
「まーでも俺マッスーなら男でもワンチャンいけるかも」
「――は!?」
なに気持ち悪いこと言ってんだとハルヤンを見たら、不意に伸びてきた手に顎をすくい取られた。
クイと上向かされて、無遠慮に顔を覗き込まれる。
「これだけ綺麗な顔の男相手にマウント取ったら、優越感やばそうだよね」
そう言ってハルヤンは冗談めかしく笑ったが、若干目が笑ってないんだが。
慌てて手を振り払って全力で離れようとしたが、ちょうどグラウンドに見慣れた野球部メンバーが出てきたのが見えた。
どうやら守備練習が始まるらしい。
「冗談だって。それくらいマッスーなら性別関係なく考えられるんじゃないのって話」
「本気で警察に訴えようと思ったわ」
「ドン引きしすぎでしょ。俺結構モテるんだけどなー」
なんか言ってるハルヤンはもう放っといて、ようやく出てきた有坂に目を向ける。
数学教師が中心となって声出ししながら守備練習をしてるが、日頃の練習の成果が出ているのか素人目には何が初心者なのか分からない。
しばらくの後練習は終わり、両校の生徒が中心に整列する。
程なくして試合が始まった。
――キン、という金属音の後、ボールが遥か遠方にすっ飛んでいく。
「あ、これ入ったな」
ハルヤンが隣でそう言った直後、相手校の2ランホームランが決まった。
強豪校と対戦しているわりには中盤までずっと抑えていたが、終盤になって試合は動いた。
最初はもっとボロボロに戦力差が出るのかと思ってたが、予想外に拮抗していたからもしやあるのか…?なんて手に汗握っていたところだったんだが。
一度試合が動くと連続で点が入り、あっという間に大量得点に繋がっていく。
「あー、頑張ってたんだけどなあ」
「だよな。俺もまさかの下剋上展開あるんじゃねーかと思った」
「ピッチャーに替えがないのが痛かったかもなぁ」
「読まれたら早かったな」
いつの間にかハルヤンとはフツーに野球の話で盛り上がっていて、まだ試合は終わってないが二人で感想戦を始める。
お互いに野球の知識はにわか程度なくせに、外野は監督気分で自由だ。
それでも最初は試合結果なんてどっちでもいいと思ってた割には予想外に楽しかったし、負けはしたけどあとで有坂に興奮したことを伝えよう。
なんて思いながら有坂の最後の打席を見つめていると、ぽつりとハルヤンが呟いた。
「…そういやさっきの話だけどさ、有坂に彼女がいたら今日来てるんじゃない?」
「――なに、マジで!?」
そう言われてキョロキョロと辺りを見回す。
が、それっぽい奴は特に見当たらない。
こっちスタンドにちらほらいる観客は子供やら年配者が多く、おそらく野球部の奴らの家族ばかりだ。
「俺思うんだけどありちゃんて彼女いたらマッスーにあんな態度取らないと思うんだよな」
「どんな態度だよ」
「え?だからこう――」
ハルヤンが言いかけた時、一際大きな音が球場に響く。
高い放物線を描いた有坂の打球が、空に上がっていく。
中々の飛距離だったが、それはライトを守る相手校の選手のグローブへと吸い込まれていった。
試合終了だ。
結果だけ見てみれば結構な得点差で負けてしまったわけだが、ただの弱小野球部だと思ってた割には中々いい試合だったんじゃないか。
強豪相手にひやっとさせることくらいは出来たはずだ。
ぞろぞろと帰宅する人の流れに乗って、俺達も席を立つ。
「…で、だからこう、なんだよ。さっきの話の続きは?」
「ああ、まあ腹減ったし飯でも食いながら話すわ」
「有坂に最後会えるかな」
「これ引退試合だろ?フツーこれから先輩方の涙の引退話みたいな流れになるんじゃないの?」
最近入ったばっかのやつに感動もなにもあるのか。
とは思ったが有坂も野球部にかなり熱を入れてたし、確かに水を差すのは悪いかもしれない。
ならハルヤンの話も気になるし、少し飯を食って帰ることにした。
「うん。まあ…なんか、もしかしたらって若干思わなかったわけじゃないけどさ」
そして俺は今、目の前の光景に目を細めている。
目の前には数人の女子がいて、キャッキャしながら俺を見ている。
「いやー今日合コンなんだけどさ、お姉さま方にマッスー連れてくるって言っちゃって。助かったわー」
「おいテメエ。またしても俺を罠に嵌めたな」
「別に今回はお金取ったとかじゃないでしょ」
「帰る」
そう言ったらガシッと腕を掴まれる。
「合コンくらいしたことないと有坂と恋愛トークの一つも出来ないんじゃないの?童貞王子」
「――はっ?」
「女と関わったこと無い奴が何を言っても刺さらないでしょ」
それはまあ、確かに。
つーかその有坂の彼女の話をしてくれるんじゃなかったのかよ。
「テキトーに途中で帰ってくれていいからさ。一緒に試合見に行ったわけだし、俺にもちょっと付き合ってよ」
なんの悪気もない顔で言われたが、そういえばハルヤンが俺に付き合って試合見に行く義理なんてないはずだ。
なぜもっと早く気付かなかったんだ。
とはいえ、有坂の試合を見れたのはハルヤンがいたからこそだったし、有坂に彼女がいるなら俺も全く女に興味が無いわけじゃない。
いっそ俺も女作ったら有坂と恋愛話しやすくなるまである。
そう思えば、仕方なくほんの少しだけ付き合ってやることにした。
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