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「有坂っ」
駅でその姿を見つけて声を掛ける。
俺の姿に気付いた有坂が、安定の難しい顔でツカツカと歩いてくる。
「なぜここにいる。家で待っていろと言っただろう」
「待ちきれなくて駅まできちった」
そう言ってふふ、と笑ったらどこか物言いたげな顔で有坂は首を擦る。
もうさっきまでのユニフォーム姿ではなく、スポーツバックに制服姿だ。
休日でも部活帰りの学生は多く、あちらこちらに同じような格好が見える。
「春屋は帰ったのか」
「うん。聞いてくれよ。またアイツに――」
騙されて合コン連れてかれた、ってチクったろかと思ったが、部活で疲れてる所に余計な心配掛けても悪いかと口を噤む。
有坂のことだから、またハルヤンに帰宅したその足で説教いきそうだ。
どうやら俺はついに友人の心配も出来るようになったらしい。
「何かされたのか?」
「ああいや、なんでもない。それより試合惜しかったな」
「…ああ。せっかく応援に来てくれたが負けてしまってすまなかった」
有坂と並んで俺の家を目指す。
この道を有坂と歩くのは二回目だ。
休日の夕方は閑散としていて、帰路に落ちるオレンジ色はどことなく淋しげだ。
「でも試合すげー興奮したし楽しかったぞ。惜しかったな」
「…そうか。ちゃんと見ていてくれたんだな」
そう言って有坂が嬉しそうに笑ったから、珍しい表情にキョトンとする。
一拍置いて、ぶわっとテンションが上がった。
「――いや、ホントいけるんじゃねーかってマジで思った。強豪相手に中盤まで抑えてたの凄くないか?」
「ああ。しっかり相手の打者の研究をしたのが生きていたな。バッテリー共に素晴らしい働きだった」
「打線だって悪くなかったぞ。相手エースだったし、それなのにヒットも出てたし」
「相手も夏の初戦とあって随分緊張していたからな。ただ終盤になって本領発揮されてしまったが」
「そうそう、だから最後すげー惜しかったなってハルヤンとも話しててさー」
やばい、楽しい。
伝えたい言葉がどんどん溢れてくる。
やっぱり有坂と話をしてるのが一番楽しい。
合コンではいまいち上がらなかったテンションも、有坂と一緒にいると跳ね上がっていく。
「結城に少しはいいところを見せたかったんだがな。悔しい思いをした」
「そんなことねーよ。初心者には見えなかったし、十分格好良かったって」
「…お前は優しいな」
有坂はどこか苦く笑いながらくしゃりと俺の髪を撫でる。
おいおい、珍しすぎんだろ。
有坂がこんなに笑顔を見せるなんて閉店セールでも始まるのかってレベルの大盤振る舞いだ。
いつも会いたい会いたい言ってるのは俺の方なのに、急に会いたいとか言ってくるし本当に今日はどうしたんだ。
なんて思ってから、俺はピンときてしまった。
もしかしてコイツ、ちょっと凹んでるんじゃないか?
それで俺に会いたいって言ってきたとか?
友達に甘えたくなった的な?
そう気付いたら、ここ最近どこか物足りなかった胸が満たされていくようにいっぱいになっていく。
有坂に頼られている気がして、何かしてあげたいと思ってしまった。
「よし、泣いてもいいぞ」
「――は?」
「ほら、胸ならいつでも貸してやるし」
そう言って足を止めて、手を広げる。
衝動のままやった事だが、有坂にどこか不思議そうな顔で見つめられた。
そういえばここはまだ駅通りで、俺は人目を引くし道にはちらほらと人もいる。
完全にノリでやっていたが俺はアホか。
慌てて開いていた手を下げると、有坂は小さく首を傾けた。
「なんだ、もしかして慰めようとしてくれたのか」
「そ、そうだよ。たまには俺だって有坂の役に立ちたいと思ったんだよ」
照れ隠しに強めの口調で返したが、有坂はもともと俺を茶化すような奴じゃない。
――今日は本当に珍しい。
不意にさっきまでの笑顔が薄れ、代わりにどこか愛しむような視線を向けられる。
ドキリと心臓が跳ねた。
「十分だ。結城がそばに居てくれればそれでいい」
有坂はそう言って抱きしめる代わりに俺の手を取って、そっと手の甲に口付けをした。
だから目立つって。
「…っおい。そ、そういうこと普通するか?」
「すまない。したくなったんだ」
思いがけない行動に変に気持ちが焦るが、有坂は全く動じた様子はない。
まるで姫様に忠誠を誓う騎士のような仕草だったが、俺は王子とは呼ばれても姫扱いされたことはないんだが。
再び有坂と歩き始めたが、なんだろう。
手の甲に触れた唇の感触が妙に残っているというか、友達相手に変に意識してどうする。
いや待て。
そもそも普通友達がこんなことするか?
「…そういえばハルヤンが変なこと言ってたな」
「え?」
「一度有坂とゆっくり話をしたほうがいいって」
「春屋が?」
話って一体なんの話だ。
有坂も分かっていないらしく、二人で顔を見合わせる。
「確かに結城と過ごす時間が中々取れなかったからな。友人として俺達のことを気にしてくれたのかもしれない」
有坂がぽつりとそう言ったが、ハルヤンは別に友人じゃねーけどな。
俺の友人は後にも先にも有坂だけだ。
今日の試合の話をしていたらあっという間に家につく。
前回と違ってまだ夕方だし、俺は有坂の手を引いた。
「せっかく来たんだしちょっと寄ってけよ。今日親いないし」
「――なに?」
そう言ったら有坂の顔が一瞬固まる。
一体なんだ。
「いい年こいて二人揃ってしょっちゅうデート行ったり旅行行ったりしてんだよ。でも家政婦さん来てるから飯あるし、有坂の分も作ってもらえるぞ」
「…ああ、なんだ。そういうことか」
「なんだってなんだよ」
有坂の態度に一瞬疑問を覚えたが、そんなことより友人と家で遊ぶのはもちろん憧れだ。
それに俺の家はゲームも漫画もかなり揃ってるし、絶対楽しいはずだ。
「な。たまにはちょっとくらいいーだろ」
そう言って半ば強制的に有坂を引っ張って家の中に招き入れる。
玄関の扉を開けると、ワフッと声がしてワンコが寄ってきた。
ゴールデンレトリバーの大型犬で、家の中で飼っている。
人懐っこく有坂に撫でられて嬉しそうに尻尾振ってるが、俺と有坂の邪魔すんな。
「綺麗な家だな」
玄関の吹き抜けを見上げながら有坂が呟く。
友達の家に行ったことがほぼないから他はよく分からないが、俺の家は欧風デザインの家で壁なんかも真っ白だ。
子供の頃よく落書きして怒られた。
まあそんなことより早く俺の部屋で一緒に遊びたい。
「俺の部屋二階な。こっち」
そう言って有坂を引っ張る。
廊下を歩いて自室にたどり着くと、ガチャリと扉を開けた。
鞄をベッドの上に放り投げて、さて有坂と何して遊ぼうと胸を弾ませる。
いや待て、その前に家政婦さんに晩飯頼んでこないとだ。
部活終わって有坂も腹減ってるよな。
そこまで考えて振り向くと、有坂が入り口前で突っ立っていた。
「……」
無言で部屋を見つめたままその場から動かない。
「何してんだよ。早く座れって」
声を掛けたが、じっと目を見つめられる。
一体なんだ。
「…結城お前」
「なに?」
未だかつてないほどまじまじと見つめられて面食らう。
え、なに。
いきなり顔めっちゃ怖いんだけど。
「どう見ても部屋が汚すぎるだろう。まずは片付けだ」
「――ええっ!?」
俺の悩みその5。
部屋の片付けが壊滅的に出来ない。
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