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――どうしよう。
心臓がドクドクしている。
もし俺の考える『最悪の事態』になってしまったら。
残りの夏休みをどう過ごせばいい。
俺はどんな顔して有坂に毎日会えばいい。
今日までこんなに楽しかった思い出はどうなるんだ。
ザーッと降り続く雨は地面を未だ叩きつけている。
傘をさしてるとはいえお互い結構濡れていて、足なんかもうびちゃびちゃだ。
「…あ、有坂。聞いてくれ」
「なんだ」
今までこんなに緊張したことなんてない。
もしかしたらこれを言ってしまったら、俺と有坂の関係はここで終わってしまうのかもしれない。
だけどこのままモヤモヤしながら、有坂とずっと一緒にいるなんて絶対に嫌だ。
有坂は俺の唯一無二の親友で、お互いに含むところのないちゃんとした親友になりたい。
有坂は俺の、俺だけの特別な存在でいてほしいんだ。
「…お、俺は有坂とは今の関係のままでずっといたいと思ってる。お前にもそう思っていてもらいたいし、この関係をこの先も変えるつもりはない」
ハッキリと言った。
ついに言ってしまった。
心臓がもうバクバクといっていて壊れそうだ。
有坂の顔は見れない。
どんな返事が返ってくるのか怖くて、ぐしゃぐしゃに濡れた地面に視線を落とす。
「…何を言っているんだ?当たり前だろう」
「――えっ」
「俺も今の関係を変えるつもりはない。結城は何を心配しているんだ」
がばっと顔を上げると、有坂は俺の言葉が理解できないというように眉を顰めていた。
予想外の表情にキョトンとする。
「…え、い、いいのか?ずっとこのままだぞ?」
「だからいいと言っている。何か不満でもあるのか」
「――な、ないっ。全然ないっ。俺はそれがいいんだ」
「そうか。それなら良かった」
有坂の言葉に唖然としてしまう。
まさかこんなにあっさり話が終わるとは思っていなかった。
思わずフリーズしてしまったが、一拍置いてさっきまでの不安が一気に無くなっていく。
代わりに頭の先までぶわっと気持ちが高揚してきて、思わず有坂の腕に自分の手を絡ませた。
堪らなく込み上げる気持ちのまま、ぎゅっと引き寄せる。
「ぬ、濡れるだろっ。もっと傘に入れてくれ」
「…なんだいきなり」
「なんでもないっ。俺の勘違いだったんだなって、全部」
「なんのことだ」
「んー?ふふ、なんでもない」
言いながら表情が緩んでしまう。
俺はちょっと自意識過剰すぎたのかもしれない。
つーか考えたら俺ら男同士だし、有坂は最近まで彼女いたくらいだからそんな簡単にホモにはならないだろ。
当たり前のように友達関係がいいと言ってくれた有坂の言葉は、俺のここ最近の全ての疑惑を綺麗に払拭してくれた。
今まで気にしすぎていたのが馬鹿みたいに気持ちが軽くなって、そうなると反動のように甘えたくなってくる。
変に意識してギクシャクしてた時間が本気で勿体無い。
旅館が見えてくる。
気づけば雨も弱まっていて、有坂は旅館ではなく実家の方へ俺を連れて行った。
傘は差していたがお互いに結構濡れていたから、さすがにそのまま旅館に入るわけにはいかないと思ったんだろう。
玄関より近場の縁側から上がると、有坂がすぐにタオルを持ってきてくれる。
柱を背に俺を座らせて、自分より先に俺の髪を拭いてくれた。
大きな手のひらにくしゃくしゃと髪を拭かれながら、じっと有坂の目を見つめる。
視線があえば、優しげにその目が細められる。
嬉しくなって俺も笑うと、髪を拭いたまま額にキスされた。
この間まで疑問に思っていたことも、今はもうなんとも思わない。
有坂は俺が可愛くて仕方ないと言っていたし、純粋に友達として可愛がってくれてるんだろう。
「ふふ、くすぐったい」
額から耳にキスされて、笑いながら有坂の服を引っ張る。
そしたらその手を取られて、今度は指先にキスをされた。
どこかビリっと甘く痺れるような感覚を感じて、身体が小さく跳ねる。
「…こら、もーダメだって」
「ダメか?もう少しさせてくれ」
「…あっ」
有坂の手が、濡れた作務衣の合わせを引っ張る。
少しはだけた首元に唇を寄せられて、ちゅ、と吸い付かれた。
初めて知る感覚に身体を震わせると、小さく有坂が笑ったのが分かった。
「…あ、お前また俺のことからかってるだろ」
「そんなことはしない。可愛くて堪らないと言っただろう」
「それは聞いたけど――」
言いながらちゅ、ちゅと何度も吸い付かれる。
すぐ背に柱が当たって、押し付けられるように首にキスされているとなんだかむず痒い気持ちになってくる。
思わず目の前の服をギュッと掴むと、有坂が顔を持ち上げた。
真っ直ぐに俺を見下ろす黒い瞳と視線が合う。
有坂の髪からはぽたぽたと雨の雫が滴っていて、俺ばっか拭いてくれていたから自分はまだびしょ濡れだ。
だけど額から滑り落ちる雫や張り付いた服から妙に色気を感じてしまって、ドキリと心臓が跳ねる。
いや俺は親友相手に何考えてんだ。
そう思っていたら、不意に有坂の手が俺の唇に触れた。
親指が下唇をなぞり、かと思ったら唇を割って中へと入り込んでくる。
「…っふ」
思わず息を漏らす。
驚きに舌を引っ込めようとしたが、ぺろりと有坂の指に舌が触れてしまった。
「…っ」
有坂が息を詰めて、その視線が強くなる。
なんだろう。
今まで誰にもされたことのないようなことをされているのに、不思議と抵抗感はない。
有坂とちゃんと気持ちが通じ合っていることを知って、ホッとしたからだろうか。
分からないが今はただ、無性に甘えたいし同じくらい甘やかして欲しい気持ちでいっぱいだ。
唇から指が引き抜かれて、離れていった手に名残惜しさを感じてしまう。
追いかけるように自分からその手を掴むと、応えるように有坂の指が絡んだ。
そばに居てくれる体温は堪らなく暖かく、一人じゃないことを知って嬉しくなる。
不意に繋いだ手に力が入り、俺の顔に影が掛かる。
そっと近づいてきた顔に目を見開いたその時――。
「桐吾さん、益男さん。こんな場所で何をなさっているのですか」
突然聞こえた声にガバっと二人で顔を向ける。
腕組みした有坂母が、ニコニコと笑っていない目で俺達二人を見つめていた。
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