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一度触れた唇が離れて、もう一度。
押し付けるようにもう一度。
我慢出来ないというように再度唇にキスをされる。
「…っ有坂」
グイと両手で身体を押す。
友達同士は絶対にこんなキスはしない。
有坂の身体を引き剥がしながら、呆然とその顔を見上げる。
心臓が酷くバクバクしていた。
「…な、なんでキスすんの」
俺を見つめる有坂の瞳は熱に浮かされたようでいて、その視線の意味を俺はよく知っている。
「嫌だったか」
「い、嫌とかって問題じゃなくて…」
どうしよう。
声が震えてくる。
さっきまでこれ以上無いってほど幸せだと思っていた気持ちが、急に色を変えていく。
呆然としたまま俺は再び口を開いた。
「――だって俺達さ、友達だよな?」
そう言ったら、有坂の表情が驚いたように強張る。
友達だって言ってくれ。
今のは何かの間違いであってくれ。
ほっぺにチューしようと思ったら滑って唇に当たっちゃったとか、なんでもいいから言い訳してくれ。
「俺は結城を友達だと思ってはいない」
――ガツン、と鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
有坂の目がじっと俺を見下ろす。
「俺は結城と恋人同士だと思っていたのだが違うのか」
「ええっ!?お、俺は親友だと思ってたんだけど…」
「なに?」
唐突な言葉に目を見開く。
嘘だろ。
なんでそうなったんだ。
え、いつ俺告白された?
俺の反応に有坂も驚いたようで、二人して見つめ合ったまま硬直してしまう。
いつの間にか花火は終わっていて、暗い夜の公園に取り残されたように俺達は向かい合っていた。
しばらくの後、有坂が息を吐き出して額に手を当てる。
「…すまないが少し気持ちを整理させてくれ。俺と結城に認識のズレがあったということか」
苦々しい表情に心臓がギュッと苦しくなる。
さっきまでお互い笑顔で、どうしようもなく幸せで堪らなかったのに、どうしてこんなことになったんだ。
だけどめちゃくちゃショックを受けているのは俺も同じで、ドクドクとさっきから嫌な心音が鳴り続けている。
「…ち、ちゃんとした友達が出来たの初めてだったんだ」
「…は?」
「有坂が…は、初めての友達で。どっか遊びに行ったりするのも初めてで。誘ってもらったり誘うのも初めてで…俺ずっと嬉しくて――だ、だから…」
声が震えて、消え入りそうだ。
だけど言いながら自分が今まで有坂にしてきた行動が蘇ってくる。
そう、俺はめちゃくちゃ嬉しくて、幸せで堪らなかった。
有坂に出会ってから、夜も眠れない日があるほどずっとはしゃいでた。
どこへ行くにも何をするにも有坂を追いかけて、いつも一緒にいたかった。
有坂の視線をずっと俺に釘付けにしておきたいほど、堪らなく自分だけを見ていてほしかった。
だけどそれのせいで、もしかしたら行き過ぎた行動を取っていたんじゃないか。
有坂を誤解させてしまう行動を、俺は無意識に取ってしまってたのか。
「…なるほどな。初めて出来た友達、か」
俺の言葉で何か察したらしい有坂が小さく息を吐き出す。
さっきまでの優しげな表情はもうどこにもなく、いつもの仏頂面が五割増し曇ったような顔にビクリとしてしまう。
「…ならすまないが、俺は結城の友達になることは出来ない」
その言葉に大きく心臓が跳ねる。
足先から冷たく嫌な感覚がせり上がってくる。
「――い、嫌だ」
何を考える間もなく言葉を発していた。
有坂の服を掴んで、その顔を見上げる。
嫌だ。
それだけは、絶対に嫌だ。
俺には有坂しかいないんだ。
俺の友達は、絶対に有坂だけなんだ。
こんなに楽しくて幸せな気持ちにさせてくれるのは、この先も絶対に有坂しかいない。
「ご、誤解だったわけだろ。だったらこれからまた友達に戻って――」
「俺は結城を好きになってしまった。この気持ちを変えることはもう出来ない」
「で、でもそれは勘違いがあったからで…。お、俺が悪かったし…っ」
「認識にズレがあったのは認める。だが俺は結城が好きだ。友達としてではなく、俺はお前に恋をしている」
ハッキリと告げられた有坂の視線には迷いなんかカケラも無かった。
有坂の気持ちが変わらないことを知ってしまう。
なら有坂が俺に今まで取っていた行動は、全部恋人としての行動だったのか。
親友として可愛がってくれていたわけじゃなく、恋人として愛しんでたってことになるのか。
考えれば考えるほど思い至ることはたくさんあって、気持ちが酷く動揺してしまう。
それでも俺は、有坂には友達でいて欲しい。
「…そ、それは困る」
言葉が口から滑り落ちていく。
「好きになられるのは…困る」
有坂の目がハッとしたように俺を見つめる。
「――有坂、ごめん」
消え入りそうな俺の言葉が、夜の公園に溶けていった。
二人で夜道を旅館に向けて歩く。
俺達の間に言葉はなくて、というかお互い考えることが多すぎて会話している余裕なんてなかった。
ずっと繋いでくれていた手も、もう今は繋いでくれない。
胸が痛くて、苦しくて、俺はずっと動揺したままだった。
俺は有坂を振ったことになるのか。
友達関係はどうなるんだ。
明日からどうする。
学校に行ったら?
俺はもう有坂と話しちゃいけないのか?
有坂がいない生活なんて考えられない。
だけど、有坂には友達にはなれないって言われてしまった。
じゃあ俺はまた一人ぼっちに戻るのか。
虫の声も聞こえず、暑さも感じないほど俺の頭はずっと真っ白だった。
まるで甘く幸せな夢から覚めたみたいにその反動は大きくて、どうしようもなく怖くて堪らなかった。
――俺達は一体、いつからすれ違っていたんだ。
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