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地元に帰ってきた時は空がオレンジ色に変わっていた。
見慣れた景色を見ればやっぱりホッとするけど、なんとなく寂しくもある。
有坂がいつも通り家まで送ると言ってくれて、素直に甘えることにした。
というかまだ離れたくない。
何を話せばいいのか分からないけど、ぎこちないままで帰りたくない。
二人で家までの道のりを歩く。
有坂が引いてくれるキャリーバッグの音が、ガラガラと夕暮れの道に響いている。
新幹線では有坂が話し掛けてくれた。
きっと有坂なりに頑張って会話振ってくれたんだろうし、今度は俺から話しかけたい。
「…えっと、もうすぐ新学期はじまるな」
「そうだな」
そして終わる会話。
いや会話下手か。
いくらぼっちでもこんなコミュ障みたいな会話能力じゃ俺はなかったはずだ。
「…あー、えと。い、色々ありがとな。バイト初めてだったけど勉強なったし…」
「いや、助けられたのはこっちの方だ」
「そ、そんなことない。俺の方こそいっぱい助けてもらって感謝してるし――」
言いながらちょっとこの会話の流れはダメなんじゃないかと気付く。
これめちゃくちゃ締めに入る流れだろ。
このままじゃ今までありがとう、みたいな流れになって終わってしまいそうだ。
慌てて話題を変えようと動揺している間に、俺の家が見えてきてしまう。
駅から俺の家はどうしてこんなに近いんだ。
焦る気持ちのまま隣を見上げる。
真っ直ぐに前を見つめる横顔は相変わらず仏頂面で、今有坂が何を考えてるのかは分からない。
そもそも俺と有坂は性格なんか全然違うし、それこそ感性も違ければずっとお互いのことを勘違ってたくらいだ。
色々と俺達がちぐはぐなのはちゃんと分かってる。
それでもこのまま終わりたくない。
有坂とまだ一緒にいたい。
どうしても有坂を失いたくない。
俺は立ち止まると、ギュッと有坂の服の裾を掴んだ。
「…や、やっぱり俺有坂と一緒にいたい」
有坂が足を止めて、俺を見下ろす。
視線があったら、どうしようもなく自分勝手な気持ちが込み上げてくる。
「…あ、有坂と友達でいたい。ダメか?どうしても友達に戻れないか?」
一度そう言ったら、堰を切ったように感情が溢れ出していく。
そうだ。
俺の希望が通らなかったことなんて今までにないはずだ。
昔から俺の希望はどんな我儘でもゴリ押せば通ったし、ずっと甘やかされて可愛がられてきたんだ。
有坂に限っては予想外ばかりだったけど、それでもいつだって有坂は優しくてなんだかんだ俺を優先してくれた。
きっと今回だってちゃんと話せば俺の気持ちを組んでくれる。
「だが俺は結城のことが…」
「――わ、分かってる。分かってるけど…っ。お、俺は有坂と友達がいいんだ。だから有坂もそう思ってくれ。頼むから…っ」
気持ちが焦る。
ここで有坂の気持ちをちゃんと俺に向けておかないと、もう話せなくなっちゃいそうだ。
それだけは絶対に嫌だ。
さっきも新幹線の中で有坂の話を聞くだけでドキドキするほど楽しくて、こんな風に思える人はきっとこの先も現れない。
何か他に有坂を繋ぎとめておける方法はないか。
もっと考えを変えられるような言い方はないか。
「…そ、そうだ。か、考えてみろよ。だっておかしいだろ。俺達男同士だぞ。それなのに好きになるとかありえないし…絶対そんなの間違いに決まってて――」
「結城」
不意に低い声で名前を呼ばれる。
どこか鋭い視線を向けられて、ビクリと身体が竦んだ。
「結城が俺の気持ちを受け入れられない事はよく分かった。だがそう簡単に自分の気持ちを変えることは出来ない」
「で、でも…俺そんな有坂に好かれるようなやつじゃないし。ほ、ほら、片付けも出来ないし…と、友達だってまともにいないし――」
「春屋がいるだろう」
「ハルヤンは違う。有坂とハルヤンは全然違くて…っ」
「それは春屋に失礼じゃないのか」
余計に鋭くなった口調にビクビクしてしまう。
だってハルヤンは俺のこと騙すし、合コン連れてって客寄せパンダにするし、有坂は知らないかもしれないけど本当のことなんだ。
本当に有坂とハルヤンは全然違うんだ。
でもそれを言ったら、嫌われそうで怖い。
何も言えず身体を強張らせていたら、小さく有坂が息を吐き出す。
ドクドクと耳に響くほど嫌な心音が鳴っていて、次に言われる有坂の言葉が怖い。
嫌われたくないのに、何を言ったらいいのか分からない。
「…すまないがしばらく気持ちの整理をさせてくれないか」
「せ、整理ってなんだよ。お、俺嫌だ。有坂とは友達でいたい。普通に飯食ったり遊びに行ったりとか絶対にまたしたいし――」
慌ててその服に縋り付く。
嫌だ。
有坂がいなくなっちゃうのは嫌だ。
絶対に嫌だ。
必死に顔を見上げて訴えたが、手首を取られて引き剥がされた。
有坂はどこか切なげに一度俺の顔を見つめてから、ふっと視線を逸らす。
「今の俺には結城の望むような関係になってやることは出来ない」
「――で、でも俺には有坂が…」
「すまないがしばらく話し掛けないでくれ」
その言葉に身体が凍りつく。
有坂はそれ以上俺には何も言わず、背を向けて去って行ってしまった。
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