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唐突かつ久しぶりだが言わせてくれ。
俺の悩みその6。
唯一無二の親友に絶交された。
もうダメだ。
無理。
生きていけない。
帰ってきてからずっとベッドに気力なく横たわっている。
昨日の夜はショックで思い悩んで全然寝れなかった。
家族に会えば少しは気が紛れるかと思ったが、どうやらまだ海外旅行から帰ってきてないらしく完全にぼっちだ。
こんな時に限って犬まで家政婦さんが連れて帰ってるし、課題もすっきり終わってるわで、マジでやることがない。
枕に顔を埋めながら、ぼーっとスマホを見つめる。
もしかしたら有坂から何か連絡がくるんじゃないかと、もう話し掛けていいよと言ってくれるんじゃないかとずっと待ってる。
が、一向に連絡はない。
有坂の言っていたしばらく話し掛けないでくれ、って一体いつまでだ。
あと何分?何時間?何日?
もしかしてずっとじゃないよな。
ぼーっとベッドに横になりながら有坂の顔を想い出す。
自然と手の甲で唇に触れた。
そういえば俺有坂とキスしたんだよな。
あれが俺のファーストキスだったわけだが、初めてのキスがまさか男でしかも親友とか笑えなすぎだろ。
それに結末も最悪で、俺の恐れていた『最悪の事態』になってしまった。
はっきり言ってトラウマ級のファーストキスだ。
――だけど。
ぼんやりと思い出す。
抱き締められた腕の力や、頬を撫でる熱い指先。
何度も愛しむように、唇を押し付けられてキスをした。
なにより有坂の視線は俺だけを見つめてくれていて、思い出すとどこか頭が甘く痺れるような感覚に陥る。
「…会いたい」
胸がギュッと詰まっていく。
たった一日で、もう有坂の声が聞きたくて、顔が見たくて堪らない。
―――ピリリリ、と不意にスマホが音を立てた。
俺の全神経が反応して、画面も見ずに秒で電話を取る。
『あ、マッスー?オレオレ。帰ってきたー?』
「…オレオレ詐欺は間に合ってんだよ。じゃーな」
『ちょー、待った。俺の課題どうすんの』
有坂かと思ったらハルヤンだ。
変に期待した分落胆がデカすぎる。
ハルヤンの課題とか今世紀最大に今どうでもいい。
『帰ってきたら課題写させてくれるって約束じゃん』
「…どんなご都合展開だよ。自分で勝手にそういうことにしたんだろ」
『まーまーそう堅いこと言わずに。お菓子買ってくからさ』
「しかも俺んち来るつもりかよ」
詐欺師に家バレとかヤバすぎだろ。
とは思ったが、正直今は無気力状態でそんなことどうでもいい。
むしろ詐欺師だろうが俺の気が紛れるならいっそアリかもしれない。
「…いいよ」
『え?』
「課題見てやるから来いよ」
『何その突然のイケメン』
ハルヤンになんか茶化されたが、別に俺のイケメンは突然始まったことじゃない。
そんなわけでしばらくするとハルヤンが家に来た。
有坂に次いで自分の部屋に他人を入れるのは二人目だが、全く気分が盛り上がらないのはコイツが友人詐欺師だからか。
「へー、びっくりするほど汚部屋だね」
「物が散らばってたほうが落ち着くんだよ」
「あー、言いたいことは分かる。あれ、でもありちゃんがちょっと整理してくれた?」
「――え、なんで分かんの」
目を丸くすると、ハルヤンが本棚を指差す。
「漫画が綺麗に1から並んでるし本の高さも揃ってるからさ。親なら他も全部片すだろうし、前に有坂が来たのかなって」
「名探偵かよ」
「ありちゃん寮の汚い所見かけたら片っ端から整理してくからね」
それは想像出来る。
クスッと思わず笑うと、ハルヤンが俺の顔を覗き込んできた。
「マッスー飯食った?俺色々買ってきたよ」
「後で高額請求するんだろどうせ」
「されても別にいいでしょ。金持ちだし」
「バイトしたら俺は金の有り難みがだな…」
「旅館可愛い子いた?いるなら俺も来年バイトしにいこーかな」
人の話を聞け。
ジジババしかいなかったが騙して連れてったろかな。
とは思ったが、来年も有坂と一緒にいれるかどうかがまず問題だ。
いや、今はそんな不穏なことは考えないでおこう。
ハルヤンがテーブルに課題を広げて、買ってきてくれたお菓子をベッドで寝そべりながら口に入れる。
人の課題を丸写しとか姑息すぎるが、別にハルヤンの頭が悪くなるだけだから気にしないことにした。
「なあ、ハルヤン」
「んー?」
サラサラとシャーペンが走る音を聞きながら、じっとスマホをガン見する。
どれだけ見ても有坂からは何も来ない。
「有坂にハルヤンと有坂は友達でも全然違うって言ったら、それは春屋に失礼だろうって怒られた」
「ぶっ、ありちゃんらしい」
「詐欺師と親友一緒にすんなよなぁ」
「マッスーもさらりと酷いよね」
全く気にしてない様子でそう言いながら、ハルヤンは俺のノートを捲る。
それから再びシャーペンを走らせる音が室内に響く。
「なあ、ハルヤン」
「んー?」
「有坂がぼっちになって俺だけ見てくれる方法ねーかな」
「あ、それ俺が夏休みに追いかけられたメンヘラ女子に言われた言葉だわ。危ないからやめよーね」
人をメンヘラ扱いすんな。
俺は恋人じゃなく友達としてそう言ってるんだが。
それからまたスマホを見つめる。
有坂からはやっぱり何もこない。
どれだけ待っても、何もこない。
「…なあ、ハルヤン」
「んー?」
なんだろう。
もうずっと胸が痛くて、心臓が掴まれたみたいに苦しい。
こんな気持ちになったことは、今までに一度だってない。
胸の中にぽっかりと穴が開いてしまったような、時間を戻したいとめちゃくちゃ後悔しているような、でもそれをしたところできっと意味はないんだ。
じゃあこの気持ちはどうしたらいい。
「…有坂相談に乗ってくれ」
「いいよ」
そう言ったらハルヤンはシャーペンを置いて俺に顔を向けた。
その日俺はハルヤンにたくさん有坂のことを話した。
この夏の出来事。
夏祭りのこと。
俺達が勘違ってたこと。
楽しいことも嬉しいことも、最後にあった苦しいことも全部話した。
一度話したら止まらなくて、堰が切ったようにずっと話し続けた。
友人詐欺師に話すことじゃ無いのかもしれないが、一人で抱え込んでいたら心がどうにかなってしまいそうだった。
ハルヤンは珍しく一度も茶化さず、ちゃんと俺の話を聞いてくれた。
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