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「結城くん、ここのシーンなんだけど…どうしたらいいかなぁ。ドレスが長いから階段怖いなぁって…」
「じゃあ俺がここで手を引けばいいか?転んだら困るしな」
「わ、ありがと。結城くんってすごく頼りになるよね」
当然だろ。
俺の出る劇で失敗とかありえねーんだよ。
なんて自信満々に思ってはいるが、今日もテンションは上がらない。
演劇練習が始まってから、有坂との時間は全然取れないままだ。
「朝宮さんと結城くんのカップルは絶対やばいよね。美男美女でほんとお似合いだよねー」
「本当に付き合っちゃったりとかもあるんじゃない?」
「えーっ、王子に彼女とかそれはそれで嫌ー」
外野は好き勝手言ってるなと思うが、そんなことはどうでもいい。
俺にとっては有坂が全てで、そっちの関係が終わりそうになってる事の方が深刻だ。
「…あの、私のせいで変な噂立っちゃったらごめんね?」
「別に気にしてないから平気。むしろ演劇の噂とか集客に繋がるから悪くないだろ」
「ふふ、そっか。じゃあ今だけ結城くんのお姫様ってことにしちゃおうかなぁ」
朝宮さんは最初こそ俺と話すのにどこかふわふわしていたが、最近は少し慣れたらしい。
聞いてんだか聞いてないんだか分からない態度取られると苛々するから、慣れてくれるのは有り難い。
机に台本を置いてあれこれ二人で相談をする。
周りの奴らも入ってくればいいのに、最近無駄に気を使って入ってこない。
恋人の噂立てようとしてんのがミエミエだ。
「…ねえ、結城くん。ちょっと相談していいかな」
「なに」
「実はね、最近ちょっと嫌がらせをされてるかもしれなくて…」
演劇の相談かと思えば違う話かよ。
そんなのは俺じゃなく教師にでも言え。
「えっと…毎朝変な手紙が机の中に入っていたりね、下駄箱にも入ってて…」
「あー、俺そういうの日常茶飯事だからな。気にしないでゴミ箱に捨てとけばいいと思うぞ」
「結城くんはすごいなぁ。でも私なんだか怖くなっちゃって…」
そう言って朝宮さんは俯く。
まあ確かに女子なら怖くもなるか。
とはいえ俺に相談すること自体が正直間違っている。
俺は相談はしても相談されるのは苦手なんだ。
「もしかしたら、最近結城くんと一緒にいることで嫉妬されちゃってるのかなぁ」
「ああ、朝宮さんて可愛いし嫉妬もあるかもな」
「――えっ。可愛いって…」
確かハルヤンが学校一可愛いとか言ってたよな。
まあ俺から見たら自分よりチヤホヤされる奴なんていると思わないから、どうとも思わないが。
いや待て。
有坂がワンチャン好きになったら困るから、どうでもいいってことはない。
アイツ俺が好きって言ってたし絶対面食いだろ。
「…ど、どうしたらいいかな。このままじゃ私怖くて…」
そう言って不安そうに視線を彷徨わせる。
さすがに女子が不安がっている姿を見れば、男としてほっとけないなって気持ちにはなる。
だがどう元気づけてやればいいのか分からない。
気の利いた言葉を掛けてやるなんて俺には無理だ。
俺の知っている唯一の方法といえば。
「――わっ」
俺は手を伸ばすと、朝宮さんの髪を撫でてやった。
兄貴も俺を宥める時にそうしてくれたし、有坂もよくしてくれたけどこれをされると心が暖かくなる。
可愛がられてる気がして、めちゃくちゃ嬉しくてむず痒い気持ちになる。
今頃気付いたが朝宮さんの髪はさらりとした黒髪ロングで、こうやって俺が女子に触れたのは初めてかもしれない。
全く気にしてなかったがその目はクルリと結構大きくて、じっと上目遣いに見つめられる。
――と、不意に後ろから手首を掴まれた。
グイと力強く持ち上げられて振り向くと、後ろに有坂が立っていた。
それに気付いた瞬間、バクリと心臓が波打つ。
「――有坂」
名前を呼んで呆然とその顔を見上げる。
なんでここにいるんだ。
部活に行ったんじゃないのか。
掴まれた手は熱くて、覚えのある温度に胸がいっぱいになっていく。
久しぶりに触ってくれた。
有坂は一度じっと俺の顔を見つめてから、口を開く。
「部活がなくなった。今日は俺も参加する」
「――う、うんっ」
マジかよ。
夢みたいだ。
有坂と一緒に練習できる。
放課後の時間を一緒に過ごせる。
堪らなく表情が緩んで笑顔を作ると、有坂の目がどことなく細められる。
心臓がめちゃくちゃドキドキしてきて、居ても立ってもいられないような気持ちになる。
ああくそ、今すぐたくさん甘えて話しまくりたい。
俺だって髪を撫でられたい。
とはいえあっという間に有坂は説明を受けるため他のやつに引っ張られていって、台本を掴んだままガン睨みする。
さっさと離れてこっち来いと呪いの念を送りまくっていたが、今度は朝宮さんに俺が引っ張られて結局同じ練習に入れない。
それでも有坂との時間を過ごせるのはめちゃくちゃ貴重で、時間も忘れて放課後の練習に付き合っていた。
夏も過ぎて日の入りが早くなってきたこの頃、気付けばとっぷりと日は暮れていて空は薄闇に染まっていた。
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