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家に帰っても心臓の音は鳴り止まなかった。
帰り道に有坂とどんな会話をしたのかなんて覚えて無くて、ひたすらぼけっとしてた気がする。
ただ離れる時に思わず服を掴んだら、有坂がほんの少し驚いた顔をしたのを覚えている。
家に帰って飯も食わずにベッドに寝そべる。
顔が熱くて、頭が回らない。
有坂に酷く求められた事実が、俺の思考を根こそぎ奪っていく。
「…なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずい」
思い出せば思い出すだけ熱が上がっていく。
何度も吸われた唇はまだジンと痺れるような感覚が残っていて、居ても立ってもいられない気持ちになる。
有坂にキスされた。
二回目だ。
しかもめちゃくちゃ長くてやばいやつ。
つーか夜道が危ないから送ってもらったのに、有坂に襲われてどうすんだ。
妙に居た堪れない気持ちになりながらしばらくベッドの上でジタバタしてたが、時間が経てばなんとか気持ちが落ち着いてくる。
熱く息を吐きだして、天井を見上げた。
「有坂…謝らなかったな」
ぽーっとしたまま呟く。
人にあんなキスしておいて悪いと思ってないのか。
いや、それとも俺が悪いのか。
確かに有坂の気持ちを無視しようとしたのはまずかったかもしれない。
だけど俺達は男同士で、親友関係はあっても恋人関係はさすがにダメだろ。
俺のせいで有坂が間違った道に進んでいくのは嫌だ。
だけど有坂の事を思い出すと、分からなくなってくる。
男にあんなキスをされたのに、不思議と気持ち悪いだとか拒絶するような気持ちにはなってない。
それどころか俺はまだ有坂と一緒にいるための方法を探そうとしている。
だけど今日のことで決定的なのは、有坂は俺と友人関係にはなるつもりは全くないってことだ。
ギュッと胸が詰まる。
有坂と一緒にいるためにどうしたらいいのか、俺は頭を悩ませていた。
翌日。
朝からソワソワした気持ちで俺は自分の席に座っていた。
有坂とどんな顔をして会ったらいいのか分からない。
とりあえず距離が離れたら嫌だから挨拶はするが、めちゃくちゃ昨日のことを意識する自信がある。
いやあんなキスされてすぐ忘れろって方が無理だろ。
視界の端に有坂が入ってくるのが見えて、ビクリと驚いたみたいに身体が跳ねる。
慌てて正面を向いて、何も来るはずのないスマホを弄る。
「おはよう」
頭の上に声が落ちてきた。
珍しく有坂から声を掛けてくれた。
「お、おはようっ」
勢いよく顔を上げて言ったが、目があった瞬間ドカッと顔が熱くなる。
無理だ。
どう考えても昨日のことが頭に過る。
さすがに意識しまくってんのモロバレだ。
有坂は俺の顔を見つめてどこか決まりが悪そうな顔をしたが、何も言わず隣に座った。
隣同士とか最高だと思ってたけど、こういう時厄介だ。
隣りにいる体温を意識しすぎて、HRも出席確認も授業も全部頭に入ってこない。
その日はもう一日中落ちつかなかった。
授業中も頬杖つきながら昨日のことを考えて、ぼーっと有坂を見つめてしまう。
ノーコン数学教師が俺にすっ飛ばしたチョークを有坂がキャッチしてる姿も、気にせずぼけっと見つめてしまう。
どうしても昨日のキスが頭から離れない。
いきなり強引に壁に押し付けられてビビったけど、でも背筋が痺れるような感覚と一緒に甘ったるく舌を吸われた。
有坂が酷く俺を求めていると知って、頭がくらくらした。
俺だって有坂が欲しくて堪らなくて、ずっと俺だけに夢中になってほしいと必死になってたけど、そんなの比べ物にならないくらいの気持ちで返された。
だけど同時に、有坂との決定的な気持ちの違いを改めて知った。
「結城くん、昨日怒ってなかった?」
「え?」
放課後の練習中、朝宮さんと台本の読み合わせをしていたところで不意に聞かれた。
そんなことあったっけ。
有坂との事が強烈過ぎて他のことなんか全く覚えてない。
「…あ、あの。私他の男子と一緒に帰ってないからね。有坂くんに言われたことも断ったし…」
「ああ、それか。有坂と帰ったのかと思ったけど、俺の誤解だったから大丈夫」
「――えっ」
実際有坂は朝宮さんより俺を取ってくれたわけだしな。
まあ冷静に考えたら俺が負けるわけないが、改めて思い返せば気分がいい。
フフンとちょっと得意げになっていたが、ふと気付けば朝宮さんは惚けたような顔で俺を見つめていた。
覚えのある視線は、もう何度もいろんな奴に向けられ慣れたものだ。
――それは、有坂にも。
「…あ、ゆ、結城くん。文化祭なんだけど…ちょっとだけ時間ないかな」
「なんで?」
「す、少しでいいから、一緒に見て回れたらなって――」
「…ああ。わりーけど無理」
パサリと台本を机に置いて立ち上がる。
珍しくちゃんと話せる女子だと思ってたが、朝宮さんも結局同じか。
一つ息を吐き出してカラリと教室の窓を開けると、校庭で有坂が練習をしているのが見えた。
姿を見るだけでドキドキと早まる心音を感じながら、同時に胸がチクリと痛みだす。
有坂だけは違うと思ってた。
きっと有坂は特別で、俺の友達になってくれると思って声を掛けた。
実際有坂は他とは違って俺に必要以上に気を遣ったりもしなければちゃんと目も合わせてくれて、時には部屋が汚いと叱ったりもしてくれた。
今まで俺にそんな態度を取れる奴はいなくて、絶対にこれは唯一無二の親友になれるんだと信じて疑わなかった。
だけど結局有坂も、俺のことを好きになってしまった。
必死に有坂の気持ちを説得しようとしてるけど、それでも有坂は俺と友達関係になってくれることはもうないのかもしれない。
友達関係になれないのなら、有坂も他と変わらないことになる。
有坂に出会ってたくさん楽しい気持ちを貰って、夢の中にいるような初めての感情を知って、だからこそ俺はまだ有坂と親友に戻れるって信じてる。
だけどもしも。
もしもどうにもならなかったら――。
考えたくはないがその時有坂は、俺の特別じゃなかったのかもしれない。
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