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「おい。俺が悪かったから白雪姫やってくれ」
教室に戻ると、開口一番で朝宮さんにそう言った。
この俺が謝るなんてそうあることじゃない。
とりあえず有坂に言った通りちゃんと謝ったし、これで全部解決だろ。
そう思ったが、朝宮さんはキョトンと目を丸くして俺を見上げた。
あれ?と思うと同時に隣からガシッと首根っこを捕まれる。
有坂だ。
「朝宮すまない。結城に悪気はないんだ。こんな口の聞き方をしているが本人は反省している」
「おいなんだその補足はっ。ちゃんと謝っただろーが」
「女性にはもう少し気遣えと言っただろう」
「はぁ?」
全く分からん。
有坂が言うからせっかく謝ったのに、なんでまた俺が責められなきゃいけねーんだ。
もう俺は悪くない。
ブーブー文句を訴えていたら、ぽつりと朝宮さんが口を開いた。
「なんか結城くんって思ってたより…」
何か言い掛けながら、じっと見つめられる。
が、不意にクスッと笑われた。
いきなりなんだ。
「ううん、大丈夫。ちゃんと白雪姫やるね。迷惑かけてごめんなさい」
「そうか。良かった」
「それに結城くんも私じゃないと嫌なんでしょ?みんながそう言ってたって教えてくれたんだ」
どこか上から目線気味に言われてイラッとする。
だがここは我慢だ。
実際朝宮さん以外とやるのは面倒だから考えたくない。
「…おー。またよろしくな」
「うん。それから有坂くん、色々とありがとね」
「いや、大したことはしていない」
「そんなことないよ。追いかけてきて真剣に話聞いてくれて…すごく嬉しかったな」
――ん?
どこか朝宮さんの視線が熱を帯びたような気がした。
それはいつも俺に向けられていたはずのものだが、今は有坂に向けられている。
ざわっと何か冷たく焦るような気持ちが込み上げてくる。
ちょっと待て。
それはダメだ。
それだけは絶対に、ダメだ。
「また何かあったら悩み相談聞いてね」
「分かった」
いや分かるんじゃねーよ。
有坂は俺の相談だけ聞いとけ。
むしろ俺以外と一生話すな。
慌てて有坂の腕を引っ張って席に戻る。
有坂は俺の行動に不思議そうに眉を寄せたが、今はそれどころじゃない。
朝宮さんは危険だ。
要注意人物だ。
ブラックリスト行き決定だ。
とはいえ一先ず騒動は収まり、教室内も落ち着きが戻ってくる。
そうなれば改めて放課後の練習も再開だ。
朝宮さんとは気まずくなるかと思いきや、むしろ前より普通に話せるようになった。
そういや学校一可愛いって聞いたし、モテるならそれなりにイケメン耐性があるのかもしれない。
それとも有坂を好きになったから、とかじゃないよな。
「結城くん、ラストのシーンなんだけど」
「ああ、キスシーン?別にフリだろ」
「…っあ、当たり前だよー。でも一番いいシーンだし、なるべくそれっぽく見えるようにはしたいんだけど」
「ふーん、例えば?」
「観客席があっちだから身体の向きをこうして…」
二人であれこれ話をしながら決める。
一番盛り上がるシーンだから、ここは妥協したくない。
教壇前で黒板に要点を書きながら台本片手に話をしていたが、不意に朝宮さんが首を傾げた。
「…結城くんて女の子と付き合ったことあるの?」
「――は?」
「あ、当然あるとは思ってるよ。思ってたけど、でも…」
でも、なんだよ。
なんだか疑うような視線を向けられてイラッとする。
まさか俺の童貞ハルヤンがバラしたわけじゃねーだろうな。
こうもジトっとした視線を女子に向けられると、男として謎のプライドがわき上がってくる。
「ああ、キスシーンの練習だっけ」
「えっ?うん。そーだけど――」
言い掛けてる朝宮さんの肩を力強く押す。
背後の黒板に押し付けると、逃がさないように顔横に手を置いた。
それからもう片方の手で顎をクイと持ち上げてやる。
距離を詰めるように顔を近づけると、朝宮さんの顔がドカッと赤く染まった。
同時にキャアッと悲鳴のような黄色い声が教室どころか廊下からも沸き上がる。
お互いのそれが触れる既の所で止めると、俺は唇を不敵に歪めてみせた。
どうだ。
確かに付き合ったことはないが、俺だってキスくらいしたことある。
しかも二回だ。
それも二回目はめちゃくちゃ長いしやばいやつだ。
経験を生かして有坂にされたことをそのまま再現してやったが、朝宮さんは真っ赤な顔で唇を震わせた。
「…っお、思ってたより子供だと思ったけど…か、勘違いだったかも――」
そう言って朝宮さんはずるりと腰が抜けたように身体を落とした。
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