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「有坂、はい」
「ありがとう」
その日から俺はちょくちょく弁当作っては有坂に渡すことにした。
ハルヤンはたまにくらいにしないと効果薄れるとか言ってたけど、たまにとか我慢できない。
確かに一番最初の衝撃的な笑顔は見せてくれないけど、でも嬉しそうなのが俺には分かる。
実際表情は変わってないけど、弁当渡すとめちゃくちゃ機嫌良さそうだ。
「二回戦残念だったな。まさかまた前回の優勝校と当たるとか」
「元々分かっていたことだ。だが手応えはあった。夏大までには必ず対策を立ててみせる」
有坂は意気込んでいるが、安定のクジ運の悪さだ。
あの奇跡の快進撃を見せた我が校の野球部も、結局二回戦目で敗退という結果に終わってしまった。
まあ俺が応援に行けなかったからしょうがない。
そんなわけでようやく有坂もクラス行事に参加出来る…と思ったが、クラスだけじゃなく他の部活や同好会の出し物もあるらしく、結局有坂は忙しい。
それでも弁当を作ると、必ず一緒に食べてくれる。
「美味しい。結城は凄いな」
もっと食リポばりの感想くれてもいいが、有坂はいつもシンプルだ。
だけどたったそれだけの言葉でも胸はポカポカとあったまる。
「うん。俺料理向いてるのかも」
有坂が喜んでくれるから、めちゃくちゃ楽しい。
天才が一度興味を持つとその成長は凄まじく、すぐに俺は色々と吸収してレパートリーもかなり増えた。
今日もめちゃくちゃ自信作で、最初の弁当が噓みたいな完璧な出来栄えだ。
ちなみに律儀にも有坂は毎回弁当代を聞いてくるから、最近では俺も負担にならないように学食とか購買の値段リサーチしてきてその範囲内で作ることを覚えた。
母さんは俺が自分で弁当作り始めたことに感激して泣いてたが、同時に作れなくなったことを寂しがってもいた。
うるせーから片付け役に任命してやった。
一緒に弁当を食いながらニッコリと表情を緩ませると、柔らかく目を細めて返される。
めちゃくちゃくすぐったくて、ムズムズとしてしまう。
初めて弁当を作った日以来、有坂はどことなく優しい。
「…あ、有坂だって料理できそうだけどな。全然しねーの?」
「女将に男は女の仕事場へ入るなと昔から言われていた。恥ずかしい話だが料理をした事がない」
「へー、でも板前さんは男だったよな」
「あれは仕事だ。仕事と家庭とでは意味合いが違う」
なるほど。
確かに有坂家ではありえそうな考えだ。
男は外へ仕事、女は家で家事とか昔ながらのやつな。
つっても有坂母ばりばりの仕事マンだったけど。
「そっか。なら有坂は料理しなくていいぞ」
「何を言っている。結城が初めてでこれだけの物を作れるようになったんだ。古い考えにばかり捕われてはいけないと考えさせられた」
「いいんだ。有坂の弁当は俺が作りたい」
有坂が自分で弁当作りを始めたらこの作戦も台無しだ。
そう思って言った言葉だが、どこか驚いたような表情をされた。
それからなぜか困ったように視線を逸らされる。
「…それ意味を分かって言っているのか」
「え?」
有坂の目がどこか熱を帯びて、ドキリとする。
不意に伸びてきた手が物欲しげに俺に触れようとしたが、それは目の前でピタリと止まった。
「ゆ、結城くん。有坂くん。い…一緒に練習しよ?」
朝宮さんがなぜか赤い顔で俺達二人を交互に見つめていた。
「白雪姫はどっちを選ぶんだろうねー。王子と家来」
「そりゃ王子でしょ」
「えー、でも有坂くんかなり頼りになるよ。私昔コンタクト落とした時遅くまで一緒に探してくれたし」
「なにそのエピソード惚れるー」
いつの間にか全然違う方向に話がシフトしてんじゃねーか。
演劇の練習は順調に進んでいき、衣装や小道具も出来上がっていく。
他の教室も文化祭モードに飾り付けられていき、校門には看板が掲げられる。
相変わらず有坂は忙しくて演劇練習に参加したりしなかったりだったけど、クラスの出し物に参加した時は必ず俺を家まで送ってくれた。
有坂がいる時は俺も遅くまで残るからっていうのもある。
弁当効果のおかげかいつの間にか俺達は普通に話せるようになっていて、夏休みの時のような関係に戻っていた。
「また明日」
俺を送り届けて、あっさりと背中を向ける有坂のシャツを引っ張る。
寂しいと強請ったらすぐに抱き締められて、額にキスされた。
くすぐったくて笑ったら、すぐ唇の横にもキスされる。
前に長くてやばいキスをされた事を思い出して、頭がぼーっと熱くなる。
「あー…それはダメだって」
「家の前だったな。すまない」
別にそこは全然いいけど。
有坂の手が名残惜しげにゆるゆると俺の頬を撫でる。
気持ちよくて甘えるように自分もその手に頬を擦り付けたら、もう一度抱き締められた。
いつの間にか夏のうだるような暑さは遠のいて、ほんの少し涼しくなった秋風が俺達の間を通り過ぎていく。
文化祭も有坂と一緒に回れて、俺達の関係も前みたいに戻ることが出来た。
有坂の気持ちを無視している事は分かっていたが、それでも俺はまだ有坂に自分の特別のままでいて欲しかった。
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