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「…お、遅いっ」
「待たせてすまない」
思わずガシッと有坂の手首を掴む。
掴んでないと瞬きする間にすぐまた消えちゃいそうだ。
有坂はあやすように数度俺の髪を撫でてから、丸メガネの元主将へと顔を向けた。
「結城の相手をしてくれて有難うございます」
「――えっ?あ、いや…っ。こ、こちらこそ遊ばせて頂いて…っ」
そりゃ俺と遊べて光栄だろうとは思うが、有坂が頭を下げるなら俺も一応礼を言っておく。
まあ結構楽しかったし。
「碁はどうだ?初めてだったのか」
「うん。ジジババの遊びだと思ってたけど奥が深くて驚いた」
「そうか」
囲碁部の教室を出て、有坂と一緒に廊下を歩く。
やっとここからは二人の時間だ。
行きたいところはいっぱいあるというか、思いつく限り全部見て回りたい。
でも二人で文化祭を歩ければ別になんでもいい気もする。
「なあ、どこから行く?俺まずは――」
「すまないがまだ同好会の出し物に参加しないといけない」
「は!?嘘だろ。無理。絶対嫌だ。もう待てない」
唐突な有坂の言葉に断固拒否する。
なんでコイツはいつも俺が一番じゃないんだ。
俺のこと好きなんじゃねーのかよ。
絶対許さないと有坂の手を掴んだままその場で立ち止まったら、クスリと笑い声が落ちてきた。
いや笑い事じゃねーんだが。
演劇の時間だってあるのに、マジで深刻問題だ。
「言葉が足りなかったな。一緒に来てくれるか?俺も結城との時間を無駄にしたくない」
「…あ」
優しい口調でそう言われて、トクリと心臓が動き出す。
有坂が俺を突き放そうとしていたわけじゃないことを知って、意地になっていた気持ちが緩んでいく。
「分かった。一緒ならどこでもいいよ」
「そうか」
俺を見る有坂の視線は暖かくて、夏休みの時みたいにテンションが上っていく。
それから俺は有坂にくっついて回った。
有坂はマジで同好会マスターで、それはいろんなものに所属していた。
「料理研究会とか入ってるのに料理は出来ないのか?」
「料理研究会は料理をするのではない。研究をするんだ」
「…へー?」
全く分からん。
誰が読みにくるんだか分からない長文の研究書を有坂と眺めて回る。
「うわっ、なんだこれ。お化け屋敷?」
「違う。超常現象研究会だ。世のオカルト話を集めて調べている」
「有坂の実家が一番出そうだったぞ」
「何?次に帰省した時に調査してみるか」
いや真面目か。
でも日本人形とか能面とか武者の甲冑とか、古い旅館だったしマジで雰囲気はあった。
「――ゆ、結城くんっ!キミ有坂くんとは違って筋がいい…いや、只者ではないね!?ここでこのショトカに入力コマンドとはなかなかの猛者…ぜ、ぜひ我がゲーム同好会に入らないか?」
「結城は凄いな。ゲームもこなせるのか」
ここはめちゃくちゃ楽しかった。
ゲームは子供の頃から兄貴達と遊びまくってるから、ちょいと腕前を披露してやったら褒められまくった。
得意げになりながらゲーム研究会の教室を出て、喉乾いたと有坂の服を引っ張る。
ならHR棟へ行こうとなって、適当に飲食店をやっている教室に入った。
「…お、お待たせしました…っ」
真っ赤な顔で浴衣姿の店員さんに頼んだドリンクを手渡される。
どうやらここは和カフェらしい。
一応それっぽい感じの仕草で店の中に通されたが、あの小煩い有坂母の元で一ヶ月も働いていた俺としては素人臭い動きが目につく。
まあ文化祭はお遊びでやってるから別にいいんだが、和服なんか着てるから余計気になる。
なんて思っていたら、有坂が隣で浴衣の女子を目で追いかけていた。
ふざけんな。
俺以外の奴を見るんじゃねえ。
「そんなに和服女子が好きかよ」
冷たい飲み物を啜りながら、ジトっと目を細める。
俺の言葉に気付いた有坂が、小さく首を傾けた。
「なんだその目は。飲み物が不味かったか」
「え?…あ、いや。これは美味い。買ってくれてありがとう」
「別にいい。じゃあなんだ」
淡々と聞き返される。
そういや有坂のタイプとか一度も聞いたことはないが、やっぱり昔ながらの奥ゆかしい女子が好きなんだろうか。
あ、もちろん俺に関してはタイプとは言わない。
なぜなら俺は万人受けするからだ。
「今浴衣女子じっと見てただろ」
「…なんだ。妬いたのか」
「おー。有坂が他の奴見てると気分悪い」
言わなきゃ分からなそうだし、そのまま言ってやる。
有坂の一番は俺じゃないと嫌なんだ。
いや、一番どころか有坂には俺だけでいい。
「…全くお前は。本当に――」
有坂が何か言いかけたが、言葉よりも早く伸びてきた手が俺の頬を撫でる。
じっと向けられる視線はもう俺だけを見ていて、頭がどこかぼーっと熱くなる。
触れられる手が気持ちいい。
「他の奴に目を向けていたわけじゃない」
相変わらず無愛想な言い方だが、その口調はどこか柔らかい。
「旅館での結城の所作は美しかったなと、思い出していたんだ」
そう言って有坂は俺から手を離して立ち上がった。
今来たばっかなのに、もう場所を移動するのか。
「もう一つ店番を頼まれていた場所がある。一緒に来てくれ」
そう言うと再び俺の手を取る。
珍しく強引に俺を立たせると、構わずその手を引いた。
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