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――パシャ、パシャッとシャッター音が鳴る。
一回二回で終わること無く、カシャカシャカシャと際限無く鳴り響くそれに、だんだん苛々してくる。
「結城くん、笑って。学校でクラスメイトと遊んでるときみたいに自然にしてね」
「あ?」
ナチュラルに喧嘩売られてブチ切れそうになったところで、ハルヤンが俺に手を上げる。
「あー、はいはい。ありちゃんと一緒にいる時想像してって意味ねー」
「――えっ」
今その話題は俺にはめちゃくちゃ嬉しい。
なぜなら有坂が俺と友達になってくれると言ってくれた。
ずっと、ずっと一生俺だけを見て友達でいると言ってくれた。
俺はこの先の人生ずっと有坂と一緒にいられるんだ。
学校を卒業しても、もっと大人になっても、有坂は死ぬまで俺の友達でそばに居てくれる。
そう思えば怖いものなんかこの世にないとすら思えた。
俺はもう、一人になることはないんだ。
「はい、オッケー。結城くん、お疲れ様」
そう言われてドッと肩の力が抜ける。
よく分からんがやっと終わった。
一体何をしているのかというと、ハルヤンに前回有坂相談したときのお代を請求されたわけだ。
なんでもまた金が尽きたから俺でバイト代を稼ぎたいらしい。
弁当効果はめちゃくちゃあったし、ちょっと写真撮るだけと言われたから仕方なく行ってやったら、やたら長い時間拘束された。
「ただの街角スナップにしては表紙飾る勢いで気合いれてませんでした?ちゃんと契約守ってくださいよ」
「わ、分かってるよ春屋くん。でもあの結城くんがようやく写真載せる許可してくれたからね。本当は専属モデルになってほしいくらいで――」
「今回限りっすけどね。それに俺のほうが親父にバレると面倒なんで」
「あー…残念だけどハルプロは大手だから逆らえないなあ」
「ま、いつも通り金振り込んどいてくださいね」
俺でゲスい会話してんじゃねえ。
じとっと目を細めると、ハルヤンは気付いたように俺の元へ来た。
「マッスーお疲れ様。お詫びに飯奢るし有坂相談聞いてあげるから機嫌直して」
「――えっ、有坂の話聞きたいか?今日すげーのあるぞ」
「なになに?ついにエッチした?」
ようやくちゃんとした友達になったことを報告しようと思ったのに、突拍子もない返しにドカッと熱が上がる。
文化祭でハルヤンの衝撃的な光景を見てしまった事のほうが蘇ってくる。
「――へ、変態っ」
「なんでよ」
思わずそう言ったが、ハルヤンは全く動じてない。
あの時のことなんかもうすっかり忘れたように呑気な顔だ。
一時はあの衝撃的な光景にハルヤンともう顔を合わせられないとまで思ったが、コイツは全く以てなにも気にしてない様子で俺の前に現れた。
安定のなんの罪も感じてないような、清々しいほど軽いノリで。
あの文化祭で見てしまった時の大人びた顔はもうどこにもなく、今はただのちょっとムカつくいつものハルヤンだ。
二人で駅前のファーストフード店で飯を食いながら、有坂と友達になった経緯を話す。
有坂の話を人に出来るのは嬉しい。
本当はもっと俺と有坂が仲良しだって事を、世界中の人に広めまくりたい。
「へー、ありちゃんよく友達になるの我慢したね。最終的に泣き落としとかメンヘラの鏡過ぎない?」
「う、うるせーな。どのみち男同士なんて間違ってんだからこれでいいんだよ」
そう。どう考えたって間違ってる。
だからこれでいいんだ。
有坂が俺に合わせてくれたことはちゃんと分かってる。
あの真面目な有坂が、友達になったからってそう簡単に気持ちを切り替えられたなんてことは思ってない。
それでも俺は有坂に友達でいて欲しい。
有坂の気持ちを見て見ぬふりしても、どうしても俺は有坂が欲しいんだ。
絶対に有坂がよくて、他に選択肢はないんだ。
「友達ってことはさ、そのうちありちゃんに彼女が出来たりするわけだけど」
「…そ、その時は応援してやるよ。友達として」
「有坂が自分だけ見てくれてぼっちになりますよーに、とか前言ってなかった?」
そんな乙女が流れ星にお願いするような言い方した覚えはないんだが。
けど確かにハルヤンの言う通り、ずっと一緒にいればそのうち有坂にだって彼女が出来る。
一生友達として一緒にいるってことは、いつか彼女が出来て結婚する有坂も見るってことになるのか。
それはしょうがないことだけど、でも有坂を取られるのかと思うとめちゃくちゃ嫌だ。
どれくらい嫌かと言うと、長時間コツコツやり続けたゲームをセーブ前に母親が掃除機掛けながら間違ってコンセント引っこ抜いた時くらい嫌だ。
いや、それよりももっとずっと嫌かもしれない。
想像すると頭がむしゃくしゃしてきて、目の前が真っ赤になる。
考えれば考えるほど嫌な気持ちになる。
「…は、ハルヤンこそ彼女とどうなんだよ。あんな場所であんな事して嫌われたりしねーの?」
「え?ああ。あれ彼女じゃないよ。文化祭で知り合った女」
「――は!?」
有坂の女問題なんて考えたくなくて話題をすり替えたわけだが、まさかの返しに驚く。
ハルヤンは俺の反応を全く気にした様子もなく、人のポテトを勝手につまんでいる。
「俺遊ぶ女は欲しいけど彼女は面倒くさいから作る気ないんだよねー」
「うわ、最低っ。マジで最低っ」
飄々と悪気なく言っているが、やっぱりコイツは最低だ。
俺とは違う世界を生きている。
つーか俺のポテト食うな。
だがハルヤンは俺の悪態にも気にせず、可笑しそうに笑ってみせた。
なにがそんなに可笑しいんだ。
「やだなー。マッスーも俺とやってる事変わらないけど。ありちゃんの気持ち好きなだけ弄んで友達関係のままなんでしょ?」
その言葉にとっさに俺は何も出てこなかった。
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