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「有坂、はい」
久しぶりの野球部の部室で、有坂に作ってきた弁当を手渡す。
文化祭も終わったしもう昼休みの演劇練習もない。
今日からは前と同じように有坂と一緒に昼休みの時間を過ごせる。
「いつもすまない」
有坂はそう言って俺の弁当を受け取って、二人で一緒にお昼ご飯を食べる。
おそろいの弁当を一緒に食べていると、堪らなく幸せで頬が緩む。
有坂がいてくれる。
夢じゃないんだ。
有坂が俺を友達だと認めてくれて、ずっと一緒にいるって言ってくれた。
きっともう話しかけるな、とか言われて拒否されることもない。
堂々と隣りにいて、友達だって言って良いんだ。
「機嫌が良さそうだな」
「うん。有坂がいてくれて嬉しいなって思ってた」
「…お前は本当に一人だったんだな」
そう言ってゆるりと髪を撫でられる。
有坂に触れられると気持ちがいい。
心臓が速くなって、頭がふわふわとする。
本当に夢の中にいるみたいだ。
だけど夢はすぐ覚める。
今日も尽きることない盛り沢山の話を捲し立てていたが、有坂は弁当を食べ終わると立ち上がる。
ジャージに着替え始めて、安定の部活練習に行くらしい。
「なあ、もう秋大は終わったんだろ?まだ練習すんの」
「これからのシーズンは他の部活や同好会に顔を出すことが多くなる。野球部に割く時間が少なくなる分、昼の練習は欠かさずにやりたい」
「…ふーん」
ということは文化祭が終わっても、結局昼休みも放課後も忙しいのか。
相変わらず有坂には時間がない。
もっと一緒にいる時間が欲しい。
文化祭は色々あったけど、でも二人で回れたのはめちゃくちゃ楽しかった。
夏休みと同じくらい楽しくて、今思い出してもまだドキドキ出来る。
二人で同好会の教室をたくさん見て回って、一緒に和カフェ行って、それからプラネタリウムに行って――。
唐突に蘇ってきた光景にぶわっと体温が上がる。
落ち着かない気持ちになってソワソワしていると、着替え終わったらしい有坂が部室を出ていこうとした。
背筋がゾクリと冷えて、慌てて立ち上がる。
「――あ、有坂っ」
駆け寄ってその服を引っ張る。
なんでそんなにあっさり出ていこうとするんだ。
もう少し別れを惜しんでくれたっていいだろ。
そんな風に俺に見向きもしないでいなくなろうとすると、不安になる。
俺のことなんかなんとも思ってないんじゃないかって、ひょっとしたらまたいなくなろうとするんじゃないかって怖くなる。
有坂はどこかギクリとしたように一度固まったが、俺の顔を見るとすぐに身体の向きを変えた。
それから目線を合わせるように少し屈み込む。
「すぐそこで素振りをするだけだ。不安にさせてしまったか」
「…うん」
ドクドクと心臓が鳴ってる。
あの後夜祭以来、俺は有坂から更に離れられなくなっていた。
それは自分でも自覚があって、自然と目の前の身体を手繰り寄せると甘えるようにその胸に額を擦りつける。
寂しい。
本当はもっと俺と一緒にいて欲しい。
ずっと俺のことだけを考えていて欲しい。
その温もりを逃したくなくて必死にしがみ付いていたが、ふとハルヤンの言葉が蘇ってきた。
『マッスーも俺とやってる事変わらないけど。ありちゃんの気持ち好きなだけ弄んで友達関係のままなんでしょ?』
少しビクリとしたが、いや待て。
俺とハルヤンが同じなんてありえない。
俺はどう考えたってあんなにチャラくなんてないだろ。
――けど、今俺がこうしていることを、有坂はどう思ってるんだろう。
そう気付いて慌ててその胸から顔を上げようとしたが、不意に息が詰まるほど力強く抱き締められた。
すっぽりと覆いかぶさられて、骨が軋むような力強さで抱き締められる。
ぴったりと有坂の胸に付いた耳からは、バクバクと大きく鳴る心音が聞こえてきた。
それが有坂の音だと気づいた瞬間、頭が焼けそうなほど熱くなる。
有坂は今俺だけを見て、俺のことだけを考えてくれてる。
そう気付いたら堪らなく目眩を覚えるような心地良さが溢れ出してくる。
ハルヤンのことなんかすっかり抜け落ちてもう一度額を擦り付けると、急くようにこめかみや頬に唇が落ちてきた。
愛しむように何度も押し付けられて、その温度に頭がくらくらとする。
完全に有坂の胸にもたれ掛かるように身体を任せていたが、不意にガバリと肩を掴んで引き離された。
無意識に手を伸ばしてその身体を追い求めたが、有坂は俺の手を取ると苦々しく目を瞑る。
「…すまない。友達だったな」
呟くようにそう言って、そっと俺の手を戻した。
いまいち回らない頭でぼーっとしていると、有坂はどこか困ったように俺の頬に手の甲を押し付ける。
それから小さく息を吐き出して、何か決めたように口を開いた。
「結城、今日の放課後は空いてるか。少し連れていきたいところがある」
「――えっ」
突然の誘いに驚く。
頭が覚醒するように、一気に有坂の言葉が入り込んでくる。
それって友達からの遊びの誘いだよな。
学校帰りにどこか寄って帰るってやつだよな。
カラオケ、ゲーセン、ショッピング、飯食いに行くのでもいいし、もう有坂とならただ歩いてるだけでもいいしどこでもいい。
「――あ、空いてるっ。全部空いてるっ」
思わず興奮しながらそう返したが、有坂はどこか複雑そうな表情で頷いただけだった。
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