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ゲームアニメ研究会――もといゲー研の奴らは、確かに言うだけあってかなりゲームが上手かった。
そして有坂は驚くほどゲームが下手だった。
あの弓道場で見せたスナイプ能力はどこいった。
しかも遊んでくれたのは最初だけで、途中から部室の散らばった漫画とかゲームを片し始めている。
「結城くんっ、キミやっぱりすごいよっ。知識もさることながらその的確な状況判断、ここぞという時に敵陣へ切り込む度胸は中々身につくものじゃない。いや、何より僕が評価しているのはその素晴らしいキャラコンで――」
「ラインハルト様はやっぱり強くて美しいんですね…!三次元でもそれは変わらなかった…」
「お前らも中々やるじゃねーか」
とはいえ気付けばフツーにゲー研の奴らと騒ぎながらゲームに熱中していた。
どうやらゲー研はこの二人と有坂しかいないらしい。
やたら理屈っぽい会長と、モブ眼鏡に関しては俺をどっかの外人と勘違いしているが、それでも少人数ならまだ馴染みやすい。
性格的にいえば全く合う感じはしないが、考えてみればそれは有坂も同じだ。
それでも同じものを好きっていうのは、それだけで共通の話題がある。
それによく見てみれば部室の中には興味を惹くものも多く、ロボットや戦闘機のプラモデルとかは男の夢が詰まりまくっている。
「結城、そろそろ帰るぞ」
「――えっ」
不意に有坂に言われて窓の外を見る。
オレンジ色が掛かり始めてはいるが、まだ日暮れまでは全然時間がある。
もうすぐボス戦に行くところだし、せっかくいいところなのにまだ終われない。
「ちょっと待って。もうすぐボスなんだよ」
「そうですよ、有坂くん。下校時刻まではまだまだあるし、今ここで結城くんを帰したら我々の前線役はどうするんですかっ」
「シグルドくん、僕もまださすがに時間が早いと思うけど…」
ちょっと待て、シグルドは誰だ。
コントローラーを握りながらモブ眼鏡にジトっと目を細める。
「ダメだ。ゲームは一日二時間までだ」
が、ピシャリと有坂はそう言って俺の鞄を持ち上げた。
えーっと三人が声を上げたが、まあ俺もあまり遅くなるのは勘弁だし、有坂が言うならやめた方がいいんだ。
それに有坂が一緒に帰るってことは、もしかしたら家まで送ってくれるのかもしれない。
そう気付いたらコントローラを投げ出して立ち上がる。
「分かった。帰る」
そう言ったら有坂は一つ頷いて俺に鞄を渡した。
気付けばごちゃっとしていたゲー研は綺麗に整理整頓されていて、始めに来たときと随分印象が変わっている。
いつの間にこんなに片したんだ。
外はまだ夕焼けが掛かる程度だったが、有坂は俺を家まで送ってくれた。
帰りながらはしゃぐようにさっきのゲー研での話を有坂にする。
別にあいつらと意気投合したわけじゃない。
だけど自分が好きなことを誰かと一緒にやるってのは、実際めちゃくちゃ楽しかった。
それも相手はちゃんと他人で、甘やかされながら兄貴達と一緒に遊ぶのとはワケが違う。
同時に有坂でもなく友人詐欺師でもなく、他の奴らとまともに遊べたことも嬉しかった。
性格も違うしさすがにまだ友達と呼ぶには早い気がするが、それでも俺の顔を見てドモリながら赤くなってる奴らとはちょっと違う感じがした。
ゲームをしていると画面に熱中していて、俺の顔を見ないからっていうのもあるかもしれない。
「…随分楽しそうだな」
「うん、楽しかった。有坂のおかげだな」
「そうか」
有坂はどことなく複雑そうな表情で首を擦る。
あれ、と首を傾けたが、すぐに優しげな視線が落ちてきた。
「あそこはいつでもやっているし、結城が行きたい時に顔を出せばいい」
「有坂はいつもいないのか?」
「俺は他にも所属しているものがある。たまにしか顔を出せない」
「…そっか」
「ただし時間は守れ。その目を悪くするのは許さない」
そう言って有坂は俺の目元を人差し指でくすぐる。
別にゲームなんか子供の頃からめちゃくちゃやってきてるけどな。
でも律儀な有坂のことだから、自分が誘ったもので俺が目を悪くしたら責任感じそうだ。
そう考えれば大人しく頷いておく。
「――有坂、寂しい」
いつも通りあっさりと帰ろうとしたその背に抱きついて、頬を擦り付ける。
有坂の身体が一度強張ったが、すぐに振り向くとその手が焦ったように俺をかき抱いた。
「…っ結城」
いつも落ち着いている有坂が、切羽詰まったように俺の名前を呼ぶ。
頭の先まで熱く痺れるような感覚が込み上げてきて、背中に回した手に力を込める。
そのまま愛しむように額やこめかみ、目蓋にまで唇を押し付けられる。
どことなく今日はいつもより余裕がないように見えて、こっちまでつられるように身体が熱くなる。
息が自然とあがって、堪らなく甘えたくなる。
――足りない。
もっと欲しい。
俺も有坂に触りたい。
無意識に有坂の服を引っ張る。
熱くなった頭でその瞳を見上げると、ゴクリと有坂の喉が上下したのが見えた。
伸びてきた指先が俺の唇を押える。
酷く焦がれるような黒い瞳が俺の目を覗き込み、すぐにその唇が近づく。
荒々しく押し付けられた唇にキスされたのかと思ったが、有坂は押さえたその指先の上へ唇を落とした。
ギリギリのキスに心臓が跳ね上がる。
カッと頭に熱が上がったが、有坂はまだ物足りないというように俺の首筋に顔を埋めた。
「――っあ」
首筋から滑り落ちた唇が、俺の鎖骨へ辿り着く。
同時に強く肌を吸い上げられた。
前にも唇を押し付けられたことはあるが、その時とは全然違う。
ビリビリと電流が走るような感覚に思わず有坂の頭に手を回したが、有坂はやめることなく俺の首筋を吸い上げる。
甘く与えられる痛みに堪らず腰が落ちそうになったが、有坂はしっかりと俺の腰を引き上げて離さなかった。
少しの後、そっと俺の首筋から顔が上げられる。
ジンと鎖骨に残る感覚を覚えながら、ぼんやりと熱く息を吐き出す。
「あ…い、今何した…?」
呟くようにそう聞くと、有坂はどことなくバツの悪そうな顔を見せる。
そんな顔をするのは珍しい。
「結城のために自分で決めたことだが、やはりあまり気分がいいものではないな」
「…え?」
回らない頭で聞き返すと、有坂は気持ちを落ち着けるように一度首を振った。
それからそっとさっき自分が口付けていた俺の首筋を撫でる。
「結城の特別は俺なんだろう。他に友人をいくら作ってもいいが、それを忘れるな」
まるでそれは、有坂が俺の一番でいたいみたいだ。
俺の一番なんて何を考えるまでもなく有坂だ。
これから先も絶対に有坂が一番なのは変わらない。
「…うん」
回らない頭で頷くと、有坂は俺の反応に気を良くしたように口端をゆるりと上げた。
「いい子だ」
前にも同じように褒めてくれたことがある。
甘ったるく褒めてくれるその言葉は堪らなく心地が良くて、余計に離れがたくなる。
有坂はそっと俺の身体を離すと背を向ける。
俺はずっとその背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。
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